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4月13日の日本の昔話
  
  
  
  ニワトリのお告げ
 むかしむかし、とり小屋で、たくさんのニワトリとヒヨコをかっている、貞蔵(さだぞう)さんという人がいました。
   ある夜のこと、この貞蔵さんの家で、ふしぎなことがおこりました。
   みんながねしずまった真夜中、一わのニワトリがためいきをつきながら、天じょうを見上げ、とつぜんけたたましく鳴きだしたのです。
  「コケコッコーッ! コケコッコーッ!」
   おどろいてとびおきた貞蔵さんは、まっさおになりました。
  「これはたいへんなことになった!」
   このあたりでは、夜にニワトリが鳴くと、よくないことがおこると信じられていたのです。
   そして、夜鳴きしたニワトリは川へ流してしまう、というならわしがありました。
  「かわいそうに、なにもわるさをしたわけではないが」
   しかたなく、貞蔵さんはニワトリをわらぶくろにつめて、くびだけはふくろから出して、川へとむかいました。
   貞蔵さんは、川岸に立つと、そっとつめたい水の中に、ニワトリを流しました。
   そうして、あとも見ないで走って家に帰りました。
   すてられたニワトリは、川を流されていきましたが、とちゅうでひっかかってしまい、そのまま夜を明かしたのでした。
   そのニワトリがひっかかったところの近くに、虎吉(とらきち)さんという人が住んでいました。
   虎吉さんは、その夜、それはふしぎな夢をみました。
   その夢とは。
   トントントン。
  「だれじゃ?」
   だれかが戸口をたたくので、出てみると、一わのニワトリがそこにいて、虎吉さんにこんなことをいいました。
  「わたしは、土手町(どてちょう)にすむ貞蔵という者のニワトリじゃ、主人の家では、せんぞのいはいが一まい、ニワトリ小屋の上にころがっている。このままにしておったら、ばちがあたって、家はほろびてしまうじゃろう。どうか、早くわたしをつれていって、主人にそういってくだせえ。わたしはいま川の中、わらぶくろごとひっかかって、どうすることもできません。どうか手をかしてください。おねがいしますだ」
   そういうと、ニワトリは空高くとんでいったのです。
  「ニ、ニワトリがしゃべった!」
   虎吉さんはとびおきました。
  「・・・? 夢か、ふしぎな夢をみたもんじゃ」
   さっそく虎吉さんは、夢のなかでニワトリがつげた川にいってみました。
   するとどうでしょう。
   そこには、わらぶくろからくびを出したニワトリがいたではありませんか。
  「おお! 夢でみたとおりじゃ」
   虎吉さんがかけよると、ニワトリは、
  「コケコッコー」
  と、元気よく鳴いたのです。
   虎吉さんは、すぐにニワトリを助けあげて、貞蔵さんの家をたずねていきました。
   そして、昨夜の夢の話をしたところ、貞蔵さんもビックリ。
  「ほんに、そんなことがあるんかのう」
   二人はさっそく、ニワトリ小屋の天じょうの上を調べました。
   すると、ふしぎやふしぎ。
   ごせんぞのいはいが一まい、ほこりまみれでころがっていたのです。
  「あっ、あった! 虎吉さん、ありましたよ」
  「なんとふしぎなことよのう」
   貞蔵さんの家では、せんぞのいはいを集めて、おぼんや正月におまつりしていたのですが、その中の一まいを、ネズミがニワトリ小屋の上に運んだのでしょう。
  「これで家がほろびずにすみました」
   貞蔵さんは虎吉さんに、たくさんのおれいをしました。
  「おまえのおかげで助かったよ。これからは気をつけるで、ゆるしてくれや」
   ニワトリは、そのことばがわかったのか、
  「コケコッコー!」
  と、元気に鳴きました。
   それからは貞蔵さんの家では、おつげをしたニワトリを、とてもだいじにしたということです。
おしまい