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4月29日の日本の昔話
  
  
  
  タコとり長兵衛
 むかしむかし、あるところに、まい日タコをとり、それを売ってくらしている、タコとり長兵衛(ちょうべえ)という男がいました。
   ある日、ずっと遠くのにぎやかな町まで、タコ売りにいったところ、大きな家の前に『おれの家のむすめをもらいたいとおもう人は、だれでもなかに入ってこい』という、かんばんを見つけました。
   長兵衛は、
  「おれのようなものがいっても、あいてになってくれるだろうか?」
  と、思いましたが、そのまま入っていきました。
  「あの、かんばんをみて、まいりました」
   すると、おくから番頭(ばんとう→詳細)がでてきて、
  「おまえは、なんていう名前の人だ?」
  「おれは、あしのくらの千軒町(せんげんちょう)からきた、タコとり長兵衛というもの。そこは、ねていて朝日夕日をおがむにいいところだ」
  「それは、たいしたところだなあ」
  と、おくにとりついでくれました。
   親たちはそれをきいて、むすめをよび、
  「ずいぶん遠いところのようだが、おまえはどうするつもりかな」
  と、ききました。
   すると、いつもへんじをしなかったむすめが、
  「いくことにする」
  と、いったのです。
   長兵衛はよろこんで、
  「いついつかの、いつごろむかえにくるから」
  と、やくそくして、その日はかえっていきました。
   いよいよその日になりましたが、長兵衛からは、なんのたよりもありません。
   父はしかたなく、むすめと荷物を車にのせ、みんなで海ぞいの道を歩いていきました。
   そして、道とおる人に、
  「あしのくらの千軒町は、ここからなんぼぐらいあるべか」
  と、ききました。
  「そこは、ここからまだ三里も四里(一里は、約四キロメートル)もあって、なんにもないたいへんなところだ、もどったほうがよい」
   むすめをおくってきた人たちは、それをきいて、
  「そんなに遠いところまで、いっしょについていかれねえ。おまえももどったほうがよい」
  と、いいましたが、むすめは、
  「おれはいくとけっしんして、へんじをしてしまったから、ひとりでもいく」
  と、いって、おくってきた人たちと、わかれることにしました。
   そして、たずねたずねして、やっと夜になってつきました。
   そこは千軒町といっても、海べに家は一けんしかありません。
   その家も、四方のかべもないあばら家です。
   たしかにこれなら、ねていて朝日夕日をおがむにいいわけです。
   長兵衛は、
  「よくきてくれたなあ。こういう遠いところだから、とてもきてもらえないとおもっていた。むかえにもでなくて、すまなかった」
  と、いって、たいそうよろこびました。
   こうしてむすめは、長兵衛のあねちゃ(→奥さん)になりました。
   嫁をもらった長兵衛は、いっそうタコとりにせいだして、町に売りに歩きました。
   ある日、近くの町にいってみると、大きいあき家に、
  《この家を買う人があれば、三十文(千円ほど)で売る》
  と、たてふだがたっていました。
   長兵衛は心のなかで、「こりゃあやすい」とおもいましたが、とおりがかりの人が、
  「この家は、ばけものやしきだよ」
  と、教えてくれたので、そのまま家にもどってきました。
  「町に三十文で売るという、大きな家があったども、ばけものやしきだというし、三十文の銭こもねくて、買えねかった。ざんねんだなあ」
   それきいたあねちゃは、
  「ばけものやしきだって、なんもおっかなくねえもんだ。おらのさいふに三十文の銭こはあるから、今からいって買ってこい」
  と、いって、おくから三十文を持ってきました。
   そして、二人はその大きい家にひっこしたのです。
   長兵衛はまい日、朝早くからタコとりにいくので、まい日あねちゃは、大きな家でるすばんをして、はり仕事をしていました。
   ある日、とつぜんおくざしきのほうから、
   ドンドン、ドンドン
  と、ゆか板ならして、六尺(百八十センチ)の坊主があねちゃの前に、でんとたちふさがりました。
   さすがのあねちゃもビックリして、ブルブルふるえていましたが、だまって知らないふりをして、はり仕事をつづけました。
   すると、しばらくして、
   ドンドン、ドンドン!
  と、どこかにいってしまいました。
   でも、またすぐ、
   ドンドン、ドンドン
  と、音がして、こんどは三つ目の坊主が出てきて、あねちゃをジッと見つめています。
   あねちゃは目をつぶって、知らないふりをしていたら、やがてそれも、
   ドンドンと、行ってしまいました。
   あねちゃがホッとしているところに、また、おくのほうから、パタパタと足音がして、こんどは年とったおばあさんが、赤い手ぬぐいをかぶってでてきました。
   そのおばあさんは、あねちゃのそばにベッタリとくっついて、
  「あねちゃ、おれたちはばけものではねえんだよ。じつは金の精だ。この家のなかにある金をわたしたくて、今までになんどもなんどもでてきたが、ひっこしてきた人たちは、みなにげていってしまった。おまえにその金をみなわたすから、おれについてこい」
  と、いって、おくのざしきにつれていきました。
   そこであねちゃが、おばあさんにいわれてゆか板をはがすと、大きなかめがでてきました。
   おばあさんが、
  「ふたをとってみれ」
  と、いうので、ふたをとってみたら、なかにはピカピカひかる小判がいっぱい入っていました。
  「なんとまあ!」
   あねちゃがビックリしているまに、おばあさんは、いなくなっていました。
   タコをとってかえってきた長兵衛は、小判のいっぱい入ったかめをみて大よろこび。
   二人は大金持になり、それから一生なかよく楽しくくらしたということです。
おしまい