
  福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 6月の日本昔話 > カッパのねんぐ
6月27日の日本の昔話
  
  
  
  カッパのねんぐ
 むかしむかし、船頭(せんどう→船で人や荷物を運ぶ人)さんが、いい気持ちで舟をこいで川をくだっていました。
   すると、
  「船頭さん、船頭さん」
  と、岸のほうから、声をかけたものがあります。
   ヒョイとそっちを見ると、かみしもすがたの、りっぱな男が岸に立っていました。
  「船頭さん。どちらまでおいでですか」
  「へえ。清河橋(きよかわばし)までいくんですが、なにか、ご用ですかい?」
  「それはありがたい。じつは、このタルを河橋のたもとにある問屋(とんや)まで、とどけていただけませんか。受け人は、この手紙に書いてあります。おたのみします」
  「へえ。どうせついでですわい。ひきうけやしょう」
   舟を岸につけると、その男は手紙を船頭さんにわたして、
  「では、このタルを」
  と、そばにある大きなタルを指さしました。
   そして船頭さんに、お金をわたしていいました。
  「ただ、くれぐれもいうておきますが、このタルは、けっしてあけんようにしてください」
  「へえ」
  「どんなことがあっても、あけんようにですぞ。よろしいですな」
  「へえ。しょうちしやした」
   船頭さんは、思いがけない大金をもらったので、上きげんです。
   大きなタルを舟につむと、また川をくだっていきました。
   ところが、しばらくいくうちに船頭さんは、
  「あのお方は、このタルをあけるなあけるなと、いやにねんをおしとったが」
  と、タルのことが気になってきました。
  「まさか、死体でも入っているのではあるまいな」
   どうにも気になって、
  「ええ、くそっ。ままよ」
   船頭さんは、思いきってタルのふたをあけてみました。
  「??? ・・・こりゃあ、きみょうなもんじゃ」
   タルの中には、いままで見たこともない、どす黒いものが、いっぱいにつまっています。
  「なんじゃろう?」
   さわってみたり、においをかいでみたりしましたが、いっこうにけんとうがつきません。
  「おお、そうそう」
   船頭さんは、タルといっしょにわたされた手紙のことを思いだして、さっそくよんでみました。
   そこには、
  《カッパ(→詳細)の王さまへ。いつもいつも、われわれ臣下(しんか→けらい)のものをおまもりくださいまして、みなみな、心から感謝いたしております。さっそくながら、ことしのねんぐをおおさめもうします。なお、ひとこともうしそえますが、ことしは人間どもがわれわれを用心すること、いままでになくきびしく、そのためにきもが九十九しかとれませんでした。まことにもうしわけないことですが、のこる一つは、この船頭のものをさしあげます。どうぞ、ごえんりょなくおとりくださるよう、つつしんでおねがいもうしあげます》
   これをよんだ船頭さんは、カンカンにおこって、
  「人間さまのきもをねんぐにとるとは、なんちゅうこっちゃ。えーいっ!」
   その大タルをかかえあげると、川の中へドボーンと、ほうりこんでしまいました。
   そしてまた、何事もなかったかのように、舟をこいでいきました。
おしまい