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12月11日の日本の昔話
  
  
  
  ウサギと太郎
 むかしむかし、ある山おくに、おじいさんとまごの太郎がすんでいました。
   二人の家のすぐそばのささ山には、人をだましてはよろこぶ、わるいウサギがすみついています。
   そのころは、ウサギのしっぽは長くて大きなものでした。
   ウサギは、この大きなしっぽをじまんにしています。
   ある日のこと、山へ出かけるおじいさんが、太郎にいいました。
  「山さいって、ひとはたらきしてくるかのう。太郎、夕方にはかえってくるで、おかゆでもにて待っててくれろ」
  「うん」
   太郎はおじいさんを見送ると、おかゆを作るために、なべをあらいはじめました。
   その音に、ウサギが気づき、
  「おや? なべを洗っているのか、ということはめしを作るんだな。じゃあ、めしができるまでねて待つか」
   そういうと、ウサギはゴロッと横になり、グーグーひるねをはじめました。
   さて、夕方。
   おかゆもできあがり、いいにおいがしてくると、ウサギの鼻がピクピクピクッと動き、パッとはねおきて太郎の家へ走っていきました。
   そして太郎にいいました。
  「太郎、なにしてるだ?」
  「おかゆをにてるだよ」
  「うまいんか、そのおかゆってのは」
  「そりゃあ、うめえさ」
  「なら、ちょびっと食わせてくれや」
  「だめだめ、じいさまにおこられる」
  「ちょびっとだ、ほんのちょびっとだけだ。おら、おかゆってのを食ってみてえ。ねえねえ、ねえったら」
   ウサギがあんまりしつこいので、太郎はしかたなく、
  「じゃあ、ほんのちょびっとだぞ」
  と、なべをウサギにわたしました。
   ウサギは、うれしそうにおかゆを食いはじめ、
  「あち、あち、あちいがうまい、いやあ、うまい! じつにうまい! ああ、うまかった。さようなら」
   ウサギはなべをかえすと、あっというまに山へ帰ってしまいました。
   太郎がなべの中を見ると、なんと、からっぽです。
   こうしてウサギは、人のいい太郎をだまして、おかゆをみんな食べてしまいました。
   おじいさんが帰ってくると、太郎はなべをかかえたまま、ションボリしています。
  「太郎、おめえ、なにしてるだ?」
  「あっ、じいさま。ウサギにおかゆを食われちまっただ」
   これには、おじいさんもガッカリ。
   よく朝、おじいさんは、山へ出かけるまえに太郎にいいました。
  「太郎、きょうは、ウサギにおかゆを食われるでねえぞ」
  「うん、だいじょうぶだ」
   太郎は、きょうこそおかゆをたらふく食おうと、はりきって作りはじめました。
   そしてタ方。
  「ウサギがきたって、もうぜったいにやんねえぞ!」
   ところがまた、ウサギがきました。
  「あっ、おめえのおかげで、きのうはひどいめにあったぞ。とっとと帰れ!」
   するとウサギは、まじめな顔をしていいました。
  「そんなこといってる場合じゃないぞ。おまえのじいさまがな、山でたおれておったど」
  「えっ! ほんとうか? そりゃあたいへんだ!」
   太郎はたまげて、なにもかもほうりだすと、山ヘ走っていきました。
   その後ろすがたを見送りながら、ウサギはニンマリ。
  「ウッヒヒヒヒ、うまくいったぞ」
   いっぽう、ひっしで山をのぼっていった太郎は、ちょうど山からおりてくるおじいさんと出くわしました。
  「これ太郎! どこいくんじゃ?」
   元気なおじいさんを見た太郎は、ようやくだまされたことに気づきました。
  「しまった!」
   おじいさんと太郎が、大いそぎで家へもどると、からっぽのなべがころがっています。
   また、ウサギにごはんを食べられてしまった二人は、お腹のすいたまま、ふとんにもぐりこみました。
   そしてつぎの日、太郎が、「きょうこそは」と、おかゆをにていると。
  「太郎さん」
  「またきたなっ! もうかんべんならねえ、ウサギじるにしてやる!」
   人のいい太郎も、さすがにすごいけんまくです。
   するとウサギは、
  「ま、待って。きょうはあやまりにきただ。すまん、すまん」
  と、しんみょうな顔をして、ペコペコと頭を下げます。
   そんなウサギを見て、こころのやさしい太郎は、
  「よし、ゆるしてやるから、とっとと山へ帰れ」
  「いや、それではおらの気がすまねえ。じいさまにこれをやってくれ。これは不老長寿(ふろうちょうじゅ)の薬じゃ」
   そういうと、ウサギは太郎に竹づつを手わたしました。
  「ふろうちょうじゅって?」
   首をかしげる太郎に、ウサギはいいました。
  「おめえ、じいさまに長生きしてほしいだろ。これは、長生きの薬なんじゃ」
  「ほんとうか?」
  「でも、この薬は、すぐになべでにないときかんよ」
  「なべ? おまえ、うまいこといって、またおかゆを食うつもりじゃろう」
  「なにいってんだ。じいさまに長生きしてほしくねえのか?」
  「そりゃあ、長生きしてほしいが」
  「それ見ろ、さあ、おらがなべをからっぽにしてやるで、早くその薬をにろや」
   そういうが早いか、ウサギはまたまた、おかゆをたいらげてしまいました。
   おじいさんが山から帰ってくると、太郎はうれしそうにそのことを話し、さっそく、なべでにた薬をちゃわんについで、おじいさんにさしだしました。
  「さあ、じいさま。これ飲んで長生きしてくれろ」
  「うん? なんだか、ヘんな色合いじゃのう。それに、においも少々」
  と、首をかしげながら、一口飲んだとたん、おじいさんははき出しました。
  「うえ〜っ! なんじゃ、こりゃあ! ウサギのしょんべんでねえか!」
   ついに、おじいさんのかんにんぶくろの緒(お)が切れました。
  「太郎! まきを切るナタもってこい! ウサギのやつ、ひどいめにあわせてくれる!」
   ウサギは、すごい顔でやってきたおじいさんを見てビックリ。
   あわててにげだしました。
  「待てっ! えいっ! とうっ!」
   ナタをふりまわしながら、おじいさんはウサギをおいますが、ウサギのすばしっこいこと。
   あっちへピョンピョン、こっちへピョンピョンにげまわり、ふりむいては、おじいさんをからかいます。
  「やーい、じいさま、年じゃのう。くやしかったらつかまえてみろ」
  「いわせておけば、いいたいことをいいおって! これでもくらえっ!」
   おじいさんは、ウサギめがけてナタをなげつけました。
   ウサギはピョンとはねて、ナタをよけましたが、長いしっぽだけはよけそこない、スパッ! と切れてしまいました。
  「・・・ああっ! いてっ! いてっ!」
   しっぽをきられたウサギは、あまりのいたさに山じゅうを何日も何日も、なきながら走りまわったため、目は赤くなり、いつのまにか、前あしと後ろあしの長さがちがうようになってしまいました。
   それからだそうです、ウサギのしっぽが短くなったのは。
おしまい