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1月25日の小話
たたかれても安心
   むかしのお話でございます。
   表の涼み(すずみ)台で、隠居(いんきょ→しごとをやめ、老後生活をおくること →詳細)がふたり、向かいあって、将棋をさしておりました。
   すると、刀をさした、浪人(ろうにん→城づとめをしていないさむらい →詳細)がやってきました。
   隠居たちを見ると、そばにすわりこんで、しばらく、熱心にのぞきこんでおりました。
   そのうち浪人が、ちょこちょこ、口を出しますので、
  「だまっておれ!」
   ひとりの隠居が、ポンと、扇子(せんす)で浪人の頭をたたきました。
   浪人は、ものもいわず、こしをあげると、帰っていきました。
  「やれやれ、とんだことをしたわい」
  「そのとおりじゃ。口だしをするのは悪いが、さむらいの頭をたたくとは、おまえさんも、ちと、すぎたことじゃ」
  「なるほど。これは、文句のこぬうちに、こちらから、あやまりにいったが、よいかもしれぬ」
   などと話しあっておりますところヘ、さっきの浪人がやってきました。
   おやっ。
   見ると、頭に、かぶとをかぶっております。
  と、浪人は、ドカッと、隠居たちのそばにすわりこみ、
  「もう、いくらたたかれても、安心でござる。さあ、おはじめなされ。おはじめなされ」
と、将棋盤を指さして、さいそくをいたしました。
おしまい