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1月29日の小話
けち自慢
   長屋の男たちが、けち自慢をしておりました。
  「おれほどけちなやつはおらんだろう。なにしろ、一日のごはんのおかずは、ウメボシが一個だけだ」
   すると、ほかの男が、
  「なんともったいない。おれなんて、ウメボシを見るだけだ」
  「見るだけとは?」
  「ウメボシを見ていると、口の中につばがたまるだろう。それをおかずにごはんをたべるんだ。そうすれば、ウメボシはへらん」
  「なるほど、そいつは名案だ」
  と、感心しておりますと、別の男がバカにしたように、
  「なにをめめっちいことを。おれのほうが、もっとけちで、ごはんもおいしくたべられるぞ」
  「と、いうと」
  「おれのごはんのおかずは、しょう油だ。しょう油の入れ物にはしをつっこみ、はしについたしょう油をおかずにしてごはんをたべるんだ。けっこううまいぞ」
  「そりゃあ、うまいだろうが、しょう油がへってしまうだろう」
「いや、口の中のつばがはしについて、それがしょう油にもどるから、しょう油の量は、ふえるいっぽうよ」
おしまい