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2月15日の小話

新しい
   あるとき、りょう師が、山でイノシシ(→詳細)に出会いました。
   あわてて、鉄砲をうちましたが、なんと、玉が入っていません。
   けれども、「パーン!」という音にびっくりしたイノシシは、玉が当たってもいないのに、目をまわしてひっくりかえってしまいました。
   そこへ、ちょうど、イノシシの肉を買う商人がとおりかかりましたので、りょう師は、
  「どうだ、イノシシを買わないか」
  と、いうと、商人は、イノシシのからだをしらべて、
  「なんと、このイノシシには、鉄砲の玉があたったあとがない。いつ死んだのか、わかったものじゃない。古いんだろう?」
  「そんなことはない! たったいま、うったものだ」
  「いや、古そうな」
  「いや、新しい」
   ふたりが、そう言い争っていると、イノシシが息をふきかえして、逃げていってしまいました。
   りょう師は、それを指さすと、とくい顔で、
「ほれ、見てみろ。あのとおり、新しいじゃねえか」
おしまい