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2月28日の小話

おれじゃない
   おっちょこちょいの男が、ごろりと昼ねをしていますと、表のほうからバタバタと、せわしない足音がして、ガラリッと戸があき、友だちが飛びこんできました。
  「たいへんだ! あの横町に、おまえがたおれて死んでるぞ。それなのに、まあ、よくもそんなにのんきな顔して」
  と、いいます。男は、それをきいて、
  「なんだ、なんだ。おれがたおれて死んでいるって。そりゃ、たいへんだ」
  と、はだしで飛び出し、横町まできてみると、いわれたとおり、ひとがたおれて死んでいます。
   男は、あわててそばへより、よくよく死人の顔を見て。
「やれやれ、よかった、おれじゃあなかった」
おしまい