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3月14日の小話
思いやり
   店へやってきたふたりづれのお客さんです。
   たばこぼんが出ると、さっそくひとりが、キセル(きざみタバコを吸うための道具 →詳細)をとりあげました。
   ところが、飲もうとすると、つまっていてすえません。
   ぷっぷっと、息をふきいれてみますが、だめです。
  「どれ、ちょっと、貸してみな」
   もうひとりの客が、見かねて手を出しました。
   すると、はじめの客は、
  「まあ、そういそぐな」
  と、いいながら、また、あれこれやってみますが、キセルは、いっこうに通りません。
   相手の客は、とうとう腹を立てて、
  「えい、はやくよこせ」
  と、ひったくろうとします。
  「なんじゃい。せわしない」
   あいては、わたそうとしません。
   ふたりのようすを見ていた、家のあるじが、おくヘ声をかけました。
「これ。だれか、あっちの客にも、つまったキセルを、もってきてあげな。つまった、キセルを」
おしまい