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3月20日の小話
てつびん
   春の日の昼さがり。
   ある家に、古道具屋がきて、がらくた道具を買っておりました。
   ところが、この道具屋。
   昼寝をしている親父さんの頭をやかんとまちがえて、
  「ついでに、それも、お売りなされ」
  と、値段をつけました。
   親父さん、目をさまして、
  「いまいましい。いくら、頭がまるはげじゃとて、やかんとまちがえるとは、何ごとだ。くそっ!」
   あんまり、腹が立ったので、道具屋をおいかえすと、頭にすみをぬって、
  「これで、もう、やかんとまちがえられることはないぞ」
  と、昼寝のしなおしをはじめました。
   すると、そこヘ、ベつの古道具屋がきて、
「もしもし。そのてつびんを、お売りくだされ」
おしまい