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4月14日の小話

めじるしの犬
  むかし、山ざとにくらしているおじいさんが、
  「生きているうちに、一度、京のまちをけんぶつしたいもんじゃ」
  と、おもっていました。
   家のひとたちはそれをしって、おじいさんを、京都へのたびに出してやることにしました。
  「いいかい、おじいさん。京のまちは、家のつくりがどこもにていますからね。宿(→詳細)を出るときには、ちゃんと、めじるしをつけていきなされや。そうせんと、宿にかえりつけんでな」
  「わかった、わかった。しんぱいいらんわい」
   おじいさんは、のんびりとたびをして、京のまちの宿につきました。
   さっそく、宿のおかみさんに、
  「この近くで、けんぶつするようなところはないかのう?」
  と、たずねると、
  「新しい、きれいな橋がかかりまして、たいそうなひょうばんでございますえ。おきゃくさんも、ごらんになられませ」
   とのこと。
   おじいさん、橋のけんぶつに出かけることにしました。
  「そうそう、めじるしをわすれてはいかんな。えーと、何かめじるしになるものは」
   外に出てながめると、宿屋のにわ先に、大きな犬が一ぴき、ねています。
  「よし、あの犬をめじるしにすればよい。にわ先に、大きな犬がねそべっている宿屋。これをおぼえておけば、まちがいなくもどれる」
   おじいさんは、橋をけんぶつしました。
   赤いらんかんのみごとな橋。
   さすがは京のまちです。
   ついつい感心しているうちに、日がくれてきました。
  「さて、宿屋にもどって、ばんごはんをいただこう」
   おじいさんは、たしかこのあたりと、けんとうをつけて、帰ってきました。
   ところが、にわさきで犬のねそべっている宿屋が、どうしてもわかりません。
   犬は、どこかへ遊びにいってしまったのでしょう。
  「おーい、どこじゃ」
   夜どおしさがしても、みつかりません。
   とうとう、夜があけてしまいました。
おしまい