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4月14日の世界の昔話
  
  
  
  力比べ
  インドの昔話 → インドの国情報
 むかしむかし、ペルシア(→いまのイラン)に、ものすごい力もちの男がいました。
   ある日のこと、この力もちは、インドには自分よりも、もっとつよい力もちがいるといううわさを耳にしました。
   これを聞いた力もちは、すぐさまそのインド人と力くらべをしてみようと思いました。
   そこで町に行って十万袋の小麦粉を買うと、それをおべんとうのかわりに頭の上に乗せて、でかけました。
   日のくれるころ、インドの国ざかいにある湖につきました。
   力もちはひどくのどがかわいたので、湖の岸にひざまずいて、ズズズーッと、水を一口すいこみました。
   すると湖の水が、半分以上もへってしまいました。
   それからこんどは持ってきた小麦粉を、のこった水の中に入れてかきまぜました。
   力もちはそれを全部たべると、その場でねむってしまいました。
   さて、湖には毎朝のように、一ぴきの大きなゾウが水を飲みにきます。
   その朝も、やってきたのですが、おどろいたことに、けさは湖の水がありません。
  (どうしよう?)
   ゾウは、こまってしまいました。
   ガッカリして帰ろうとしたとき、グッスリとねこんでいる力もちを見つけました。
   そのおなかの大きいこと。
  (さては、あいつが飲みほしてしまったんだな)
  と、ゾウは気がついて、カンカンにおこりました。
   そしてゾウは、
  「えいっ!」
  と、ばかりに、力もちの頭をふみつけました。
   すると力もちは目を覚まして、ゾウにふみつけられた頭をポリポリとかくと、
  「頭をくすぐったのは、お前だな」
  と、いって、ゾウをこわきにかかえあげました。
   それからゾウをふろしきにつつんで、ヒョイと肩にかつぎました。
   それからしばらく歩いて、インドの力もちの家にたどりつきました。
   ペルシアの力もちは、大きな声でよびかけました。
  「でてこい、インドの力もち。俺さまが投げたおしてやるから、かかってこい!」
   すると中から、おかみさんがこたえました。
  「あいにく、いまはるすですよ。あの人は、山へたきぎをとりにいきました」
  「そうか。じゃ、またくる。これは、ほんの手みやげだよ」
   ペルシアの力もちはそういって、庭の中へかついできたゾウのつつみをポイッと投げこみました。
   すると中から、おかみさんの声が聞こえました。
  「あれまあ、おっかさん。ごらんよ。お客さんがネズミを投げこんでいったよ」
  「ほっておおき。ネズミの一ぴきぐらい、つまみだせばいいじゃないか」
   ペルシアの力もちはビックリしましたが、すぐに聞きちがえたのだと思いました。
  (まさか、ゾウがネズミに見えるはずはない)
   力もちは、あいてをさがしに山にむかって歩いていきました。
   インドの力もちは、すぐに見つかりました。
   なにしろ頭の上に、貨車千両ほどもたきぎを乗っけているのですから。
  「これは、まったくすばらしい相手だ」
  と、ペルシアの力もちはかんしんして、よびとめました。
  「インドの力もちよ。きみのうわさを聞いて、ぼくはわざわざペルシアから力くらべにきたんだ」
  「そうか、それはうれしい」
  と、インドの力もちはこたえました。
  「しかし、ここじゃ場所がない。それに、手をたたいてくれる見物人もいなくては、つまらない」
  「それじゃ、見物人はきみのお母さんにたのむとしよう」
  「よしきた。おっかさーん、ここにきて、力くらべを見てくれ!」
   すると、お母さんがこたえました。
  「だめ、だめ。手がはなせないよ。わたしのラクダを娘がぬすんだので、いま追っかけてるところだよ。でもなんなら、わたしの手のひらの上でやったらどうだい? それなら、追っかけながら見てやれるからね」
   そこで二人は、お母さんの手のひらの上にとび乗ると、とっくみあいをはじめました。
   このありさまを遠くのほうから見ていた娘は、これは自分をつかまえるために、お母さんが兵隊をやとってきたのだと思いました。
   それで娘はヒョイと手をのばすと、お母さんも、二人の力もちも、つれていた百六十ぴきのラクダも、みんなひっくるめて大きなふろしきにつつんでしまいました。
   そしてそれを頭の上に乗せると、ドンドンと歩いていきました。
   そのうちに、娘はおなかがすいてきたので、ちかくにあった町のパン屋を町ごとそっくりつつんで、また歩きだしました。
   やがて、ひろい畑にでました。
   畑には、大きなスイカがなっています。
   娘はそれをわってなかみをたべると、持ってきた荷物をスイカの皮の中におしこみました。
   そしてそれをまくらにして、いつのまにかグッスリとねむってしまいました。
   ねむっているうちに、大洪水がおしよせました。
   世の中のものは、なにもかもおし流されてしまいました。
   ただスイカだけが、プカプカと水の上にういていました。
   スイカはうきながら、海へながれていきました。
   やがて洪水がひいて、世の中はすっかりかわりました。
   スイカが岸辺へうちあげられて、中からぞろぞろと人間がはいだしてきました。
   お母さんや、二人の力もちや、ラクダや、パン屋や、そのほかいろいろなものがでてきました。
   新しい世界はこうして、この人たちからはじまったのです。
   つまりこれが、人間の先祖です。
   そしてスイカの中でくらしたので、人間の大きさは、だいたいおなじようになったということです。
おしまい