
  福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 7月の江戸小話 > せんこうそば
7月16日の小話
せんこうそば
   むかし、あるところに、あわてものの男がいました。
   そろそろ、正月がくるというので、この男が、まちへかいものにいったついでに、そばをたべました。
   そばをたべるのは、うまれてはじめてです。
  「こりゃあ、なんともうまいもんじゃ。かってかえって、おらのよめにもくわせてやろう」
   男は、まちをあるいて、一軒のみせのまえで足をとめました。
  「ああ、これだ、これだ。おやじ、これを全部くれ」
  「へい、まいど」
   男は、おせんこうのたばと、そばをまちがえてかいました。
  「そばというめずらしいものを、みやげにかってきたから、ゆでてくれ。うめえぞ」
   そこで、よめさんが、おゆをわかしてゆでたのですが、ちっともゆだりません。
   たべてみましたが、おいしくありません。
  「へんじゃなあ。まちでくったときは、うまかったのに、どうしたことだろう。・・・おおっ、そうじゃ、まちでは、こしをおろしてたべたから、うまかったのかもしれんな」
 おとこは、こしをおろしてたべてみましたが、やっぱり、おいしくありませんでした。
おしまい