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10月23日の日本民話
しょうじにうつる大ギツネ
岩手県の民話
むかしむかし、遠野郷(とうのごう→岩手県遠野市)の附馬牛(つくもうし)というところにある家があり、その家の娘が病気でなくなりました。
それからというもの、毎晩娘の幽霊(ゆうれい)が出るようになったのです。
娘の幽霊は、うすぼんやりとしょうじにうつります。
すると眠っていた家の人が、苦しそうにうなされるのです。
「あのやさしい娘が、わしらを苦しめるはずがない。これはひょっとしたら、キツネのしわざかもしれんぞ」
家の人たちは、村の人たちに相談してみました。
「よし、それなら、おれたちが見はりをしててやる」
元気のいい若者が何人か、ウマの小屋などにかくれて見はり番をはじめました。
ところが気味が悪くなったのか、みんな逃げかえってしまいました。
この家のとなりに、なくなった娘の兄が住んでいましたが、わけを聞くと、
「もし本当の妹が幽霊になってくるのなら、いっぺんあってみよう」
と、言って、実家へといきました。
ものかげに身をひそめていたところ、真夜中ごろ、奥座敷(おくざしき)のしょうじがボーッとあかるくなりました。
兄はビックリしましたが、よくよく目をこらして見ると、それは妹の幽霊などではありません。
一匹の大ギツネがしょうじにからだをくっつけて、座敷のようすをうかがっているのでした。
兄は音をたてないように床下をはっていって、ワラうちの木づちで大ギツネをたたきつけました。
ゴン!
たしかに手ごたえがあったものの、大ギツネそのまま逃げてしまいました。
「まて! この悪ギツネ!」
兄は追いかけましたが、山の中で見失ってしまいました。
大ギツネが何をねらってきていたのかはわかりませんが、それから娘の幽霊らしいものは出なくなったという事です。
おしまい