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7月19日の世界の昔話
  
  
  
  世界一気前のいい男
  ロシアの昔話 → ロシアの国情報
 むかしむかし、あるところに、アツムタイという男がいました。
   アツムタイは、お客がくればいつも心からもてなしをして、何かがほしいとねだられれば、おしみなく人にあげてしまう、そんな気前(きまえ)のいい男でした。
   気前のいい男の話はお城にまでとどき、王さまをイライラさせました。
  「わしはこの国の王さまだ。よく人にものをやるが、だれ一人として、わしのことを気まえがよいなどとは、いってくれない」
   そこで王さまは、家来(けらい)にいいつけました。
  「そんなに気前がよいのなら、風のようにはやいといわれている、男のウマをもらってくるがいい。いくらなんでも、世界一とうわさされているあの名馬を、手ばなすわけはないと思うがな」
   家来はさっそく、アツムタイのところへいきました。
   それは、雪のふる寒い日のことでした。
   ところがこの時、アツムタイの家には、王さまの家来をもてなすごちそうがありませんでした。
   アツムタイは考えて、ウマ小屋にいる世界一はやいという名馬を殺して、家来をもてなしたのでした。
   つぎの朝、家来が王さまの用件をつたえると、アツムタイはなきながら、
  「もうしわけございません。じつはあなたさまをもてなすものがなかったので、昨日、そのウマをごちそうしてしまったのです。王さまのおのぞみをかなえてさしあげることは、できなくなってしまいました」
   家来はお城に帰り、アツムタイの気前のよさとけだかい気持ちを、王さまにつたえました。
   すると王さまは、まえよりももっとイライラして、とんでもないおふれを出しました。
  「わしより気前のよい男がいるなんて、ゆるせない。アツムタイを殺してその首をもってくれば、どっさりほうびをやるぞ」
   しかし、アツムタイのように気前のいい男を殺そうと思うものは、国じゅうさがしても、たった一人しかいませんでした。
   さて、その一人の男は、くる日もくる日も、アツムタイをさがしまわっていました。
   しかし、見つけることはできません。
   ある日のこと、男はつかれきって、見知らぬ人のテントにとめてもらうことになりました。
   テントの主人は旅の男を心よくむかえ入れ、おいしい食事を用意してくれました。
   そして、気持ちのいい寝床までこしらえてくれたのです。
   つぎの朝、旅の男は主人にいいました。
  「わたしは王さまの命令で、アツムタイという男をさがしているのです。どうしたらその男をさがし出すことができるか、いい知恵(ちえ)はありませんか?」
   だまって聞いていた主人は、いきなり外に出ていきましたが、しばらくすると、するどい刀(かたな)をもって帰ってきました。
   そして、旅の男に刀をさし出して、いうのでした。
  「お客さま。わたしがおさがしのアツムタイでございます。あなたがわたしの首をほしいといわれるのなら、さしあげましょう。どうぞ、バッサリときりおとしてください」
   旅の男は、ビックリしました。
   まさか、この男がアツムタイだったとは。
   しかし、こまっている自分をとまらせてくれ、食事や飲み物まで用意をしてくれた主人を、とても殺す気にはなれませんでした。
   こうして旅の男は、とうとう王さまの命令をはたさず、お城に帰っていきました。
   そして王さまに、アツムタイのことを報告(ほうこく)したのです。
   すると王さまは、自分のやろうとしたことを深く反省していいました。
  「わしはアツムタイのように、自分の首をさし出す気にはとてもなれん。あの男こそ、本当に世界で一番気前のよい男だ」
おしまい