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9月4日の世界の昔話
  
  
  
  とまらないくしゃみ
  エストニアの昔話 → エストニアの国情報
 むかしむかし、みすぼらしいみなりをした、ヨボヨボのおじいさんが道を歩いていました。
   もう日がくれて、あたりはくらくなっていました。
   おじいさんは道ばたの、大きな家のまどをたたきました。
  「こんばんは。通りがかりの旅人でございます。どうか、ひと晩とめてください」
   すると、美しくきかざったおくさんがでてきて、戸をあけました。
   けれども、おじいさんを見ると、ピシャリと戸をしめてどなりました。
  「とっととお帰り! こじきなんか、とめてやれないよ!」
   しかたなくおじいさんは、また歩きだしました。
   大きな家のとなりに、小さくてみすぼらしい家がありました。
   おじいさんは、小さな家のまどをたたきました。
  「こんばんは。通りがかりの旅人でございます。どうか、ひと晩とめてください」
   するとすぐにおかみさんがでてきて、戸をあけました。
  「さあさあ、どうぞ。なにもおもてなしはできませんが、ゆっくり休んでください」
   おじいさんが家の中にはいると、せまいへやの中では、ボロボロシャツをきた子どもたちが、ワイワイさわいでいます。
  「おかみさん。どうして子どもさんたちに、あんなボロをきせておくのです?」
  と、おじいさんはたずねました。
  「おはずかしいことですが、子どもたちにパンをたべさせるお金もなくて、こまっているんです。新しいシャツなんて、とてもぬってやれません」
   おかみさんは、悲しそうにこたえました。
   あくる朝はやく、おじいさんはおかみさんにお礼をいうと、
  「おかみさん、朝とりかかったことは、夕方までつづくでしょう」
  と、いいのこして、でかけていきました。
   おかみさんには、なんのことかさっぱりわかりません。
   さて、おかみさんは子どもたち見て、つくづく考えました。
  「ほんとうに、うちの子どもたちのシャツはひどすぎる。こじきのおじいさんまであきれたくらいだもの。そうだわ。すこしだけ、きれがのこっていたっけ。あれで一枚ぐらいは、ぬってやれるかも」
   おかみさんはさっそく、となりのお金持の家へいって、ものさしをかりてきました。
   あまりぎれでシャツがぬえるかどうか、はかろうと思ったのです。
   おかみさんは、わずかばかりのきれはしにものさしをあてました。
   すると、ふしぎなことがおこりました。
   あまりぎれが、どんどんのびていくのです。
   はかってもはかっても、はかりきれません。
   きれはスルスルスルスルと、いつまでものびていきます。
   とうとうおかみさんは、日がくれるまではかりつづけました。
   きれは、おかみさんと子どもたちが一生かかってもつかいきれないほど、ながくなっていました。
  「ああ、あのおじいさんがいったのは、このことなんだわ」
   となりの家へものさしをかえしにいったとき、おかみさんは、この話をお金持のおくさんにしました。
  「しまったわ! わたしったら、どうしてあのじいさんを追い帰したりしたんだろう」
   お金持のおくさんは、顔をまっかにしてくやしがりました。
   そしてめしつかいをよんで、すぐにおじいさんを見つけてつれてくるようにいいつけました。
   めしつかいは、いっしょうけんめいおじいさんをさがしまわり、ようやく見つけて、むりやりにたのんできてもらいました。
   まっていたお金持のおくさんは、手をとるようにおじいさんをむかえました。
   ありったけのごちそうをならべてもてなすと、フカフカのベッドに案内しました。
   さて、あくる朝になりましたが、おじいさんは帰りません。
   たべたり、飲んだり、タバコをふかしたり。
   つぎの日も、つぎの日も、そのまたつぎの日も帰りません。
  「あのおじいさんたら、いつまでとまっているつもりだろう。さっさとでていけばいいのに」
   お金持のおくさんは、おじいさんにごちそうをたべさせるのがおしくてたまりません。
   すると四日目の朝、おじいさんはやっと帰るしたくをはじめました。
   おくさんは、ニコニコ顔で見送りました。
   けれどもおじいさんは、なんにもいいません。
   おくさんは、門のそとまでついて行きましたが、それでもおじいさんは、ひとこともいいません。
   おくさんはがまんができなくなって、自分のほうからいいだしました。
  「きょう、わたしはなにをしたらいいか、教えてくれませんか」
   おじいさんは、おくさんの顔を見ながらいいました。
  「朝とりかかったことは、夕方までつづくでしょうよ」
  「やったー!」
   お金持のおくさんは、大いそぎで家の中にかけこんで、ものさしできれをはかろうとしました。
   ちょうどそのとき、鼻がムズムズしてきたので、おくさんはビックリするほどの大きなくしゃみをしました。
  「ハックション! ハックション!」
   つぎからつぎへ、くしゃみはひっきりなしにつづきます。
   たべることも、飲むことも、口をきくこともできません。
  「ハックション! ハックション!」
   お金持のおくさんのくしゃみがおさまったのは、ちょうど夕日がしずんだときでした。
おしまい