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9月16日の世界の昔話
  
  
  
  コマとマリ
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 コマとマリが、おなじひきだしの中に、はいっていました。
  「ねえ、ぼくたちこうして、おなじひきだしの中にいるのだから、なかよくしようじゃないか」
  と、コマはいいました。
   でも、おしゃれな服をきて、きどっているマリは、ツン! とよこをむいて、返事をしようともしません。
   つぎの日、持ち主の坊ちゃんがきて、コマに赤と黄色で、きれいな色をぬりました。
  「さあ、ぼくを見てください」
  と、コマはいいました。
  「これなら、あなたとお友だちになっても、はずかしくないでしょう」
  「ふん!」
   マリは鼻で笑うと、コマにいいました。
  「あなたはなんとでも、ご自分のことをいいように思うがいいわ。わたしはツバメさんとお友だちになるつもりなんですからね。空をとぶツバメさんは、なんてすてきなんでしょう。土の上ばかりはっているあなたなんかと、あそんでいるひまがないのよ」
  「・・・・・・」
   コマはもう、なにも言うことができませんでした。
   ある日、コマは土の上でクルクルとまわりながら、小鳥のように空へとびあがっているマリを見ました。
   マリはとくいそうに、何度も何度も空へとびあがっていました。
   けれど、それが十ぺんめになると、それっきりかえってきませんでした。
  「マリがない。マリがなくなったわ」
   おじょうさんが、しきりにさがしましたが、どうしても見つかりません。
  「マリはツバメについて、どこかへとんでいってしまったのだ」
   コマは、そうおもいました。
   それから、ちょうど一年がたちました。
   お父さんに金色のこなをもらった坊ちゃんは、コマを金色にぬりました。
   コマは、金色のコマになりました。
   コマはうれしくて、ブンブンとうなりをたててとびまわっているうちに、ゴミためのなかへとびこみました。
  「あっ! コマがどこかへいった」
   坊ちゃんは、さんざんさがしましたが、ゴミためのコマを見つけることができませんでした。
  「ああ、なさけないなあ。それに、ここはとってもくさい」
   コマのまわりには、くさったやさいや、くだもののかわなどが、ゴミといっしょにすててありました。
   そのなかに、ふるいリンゴのような、へんな丸いものがありました。
  「あっ、マリさん!」
   コマはおどろきました。
   よく見ると、まえにおなじひきだしにいた、あのマリだったではありませんか。
   水ぶくれになって、へこんでいて、すすけているすがたは、まるでもとのおもかげはありません。
  「マリさん、いったい、どうしたのです?」
  と、コマはききました。
   マリは、はずかしそうに答えました。
  「やねのといにひっかかって、一年たつうちに、こんなになってしまいました。これからは、なかよくしてくださいね」
   けれど、そこへお手伝いさんがゴミをすてにきて、コマとマリを見つけました。
  「あら、坊ちゃんの金のコマだわ」
  と、いって、そこにころがっていたコマをひろいあげました。
  「あの、わたしもいますよ。わたしもいますってば」
   マリは、いっしょうけんめいさけびましたが、お手伝いさんは、くさったリンゴのようなマリには見むきもしないで、さっさといってしまいました。
おしまい