
  福娘童話集 > きょうの世界昔話 > 10月の世界昔話 > ディエロのるすばん
10月12日の世界の昔話
  
  
  
  ディエロのるすばん
  イタリアの昔話 → イタリアの国情報
 むかしむかし、ある村に、ディエロという若者がいました。
   ある日のこと、町へ出かけることになったお母さんが、ディエロにいいました。
  「ディエロや、ニワトリが小屋から出ないように、ちゃんと見はっていておくれ。そうしないと、タマゴをかえさないからね」
  「うん、見はっているよ」
  「それから、とだなの中のツボには、どくがはいっているんだからね。うっかりなめたら死んでしまうよ」
   ツボの中にはいっているのはどくなんかではなく、本当はおいしいジャムだったのですが、るすのあいだにディエロがなめてしまうといけないので、お母さんはそういったのです。
  「わかったよ。なめやしないよ」
   ディエロがそうこたえると、お母さんはあんしんして出かけていきました。
   そのあとディエロは、いいつけられたとおり、ニワトリ小屋をジッと見はっていました。
   でもそのうちに、ディエロはがまんできないほどねむくなってきました。
   そしていつのまにか、ニワトリ小屋によりかかって、ウトウトとねむりこんでしまったのです。
   どれくらいすぎてからか、ディエロがふと目をさますと、ニワトリが小屋から出て、にわをあるきまわっているではありませんか。
  「たいへんだ! こらっ、はいれ、はいれ」
   ディエロはあわてておっかけまわしましたが、ニワトリはにげまわって、小屋へはいろうとしません。
  「もう、おこったぞ!」
   すっかりはらをたてたディエロは、ぼうきれをひろいあげると、それをニワトリになげつけました。
  「クー、ククウ・・・」
   なんと、ニワトリはひっくりかえると、そのまましんでしまったのです。
  「たっ、たいへんだー! ニワトリがしんでしまったぞ! どうしよう・・・」
   ディエロはしばらく、かんがえこんでいましたが、
  「そうだ! おれがニワトリのかわりにタマゴをあたためてやろう!」
   ディエロは小屋へはいると、ニワトリのまねをしてタマゴの上にすわりました。
   すると、
  「グシャ、グシャグシャ」
  と、タマゴはみんなつぶれてしまったのです。
  「ああっ! タマゴがグシャグシャだ! お母さんがかえってきたら、どんなにしかられるだろう!」
   ディエロは、大声をあげてなきだしてしまいました。
   でもあんまりないたので、おなかがすいてきました。
   そこでニワトリのはねをむしりとって、だんろの火でやいてたべることにしました。
  「そうだ! 食事のときはブドウ酒もいるぞ」
   ディエロはブドウ酒がおいてある地下室へおりていき、タルのブドウ酒をツボにいれはじめました。
   すると上のへやで、ドタバタと、さわがしい音がします。
  「なんだろう? だれもいないはずなのに」
   ふしぎにおもって、ディエロがへやへかけもどってみますと、なんと二匹のネコが、ニワトリのとりあいをしているではありませんか。
  「こらあっ、ドロボウネコめ!」
   ディエロはネコをおっぱらい、やっとのことでニワトリをとりかえしました。
  「よしよし、これで大丈夫だ。・・・ああ! ブドウ酒のタルのせんを開けたままだった!」
   ディエロがあわてて地下室にもどりましたが、ブドウ酒はすっかりながれでてしまっていたのです。
  「どうしょう! お母さんがかえってきたら、どんなにしかられるだろう! いくらおわびをいっても、ゆるしてはくれないだろうな。・・・いっそ、そのまえに死んでしまったほうがいい。・・・でもどうやって、死ねばいいのだろう?」
   そこでディエロは、とだなの中のツボにはどくがはいっていると、お母さんにいわれたことをおもいだしました。
   ディエロはとだなからツボをとりだすと、中に手をつっこんでそのどくをなめました。
  「あれ? このどくは、あまくておいしいぞ」
   ディエロはむちゅうになって、ツボの中のジャムをすっかりなめてしまいました。
   すると、なんだかねむくなってきました。
   ディエロは、どくがきいてきて、もうすぐ死ぬのだとおもいました。
   そこで、おしいれの中にもぐりこんでよこになり、そのままグッスリとねむってしまったのです。
   お母さんがかえってきたのは、それからまもなくのことです。
  「ディエロ。ちゃんと、るすぼんしていたかい?」
   そう声をかけようとして、あたりを見まわしたお母さんはビックリ。
   とり小屋は空っぽで、タマゴはみんなつぶれています。
   地下室におりてみると、ゆかがブドウ酒で水びたしです。
  「これはどうしたことだい! ディエロや、どこにいるの?」
   お母さんのさけび声をきいて、ディエロがおしいれから出てきました。
  「ああ、お母さん。おれはもう死んでしまったんだよ。おれはもう、お母さんとはなしもできなくなったんだよ」
   ディエロはからになったジャムのツボをかかえて、シクシクとなき声をあげます。
  「・・・・・・」
   お母さんのほうは、あまりのことにあきれかえり、もうディエロをしかる声もでなくなっていました。
おしまい