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11月20日の世界の昔話
  
  
  
  クーナンと赤い子ウマ
中国の昔話  → 中国の国情報
 むかしむかし、ある国に、クーナンという男の子がいました。
   クーナンのともだちは、赤い子ウマです。
   その赤い子ウマは足がはやくて、まるで風のように走ることができました。
   村の人びとは、
  「あんなに早く走るウマは、見たこともない」
  と、ほめていました。
   ある日、クーナンがいつものように子ウマにのって野原を走っていると、王さまが家来(けらい)をつれてやってきました。
  「おい、クーナン」
  「はい、王さま。なんでしょうか?」
   王さまは、ひげをひねりながらいいました。
  「おまえのウマを、わしによこせ」
  「え? 赤い子ウマを」
   クーナンは、きっぱりとことわりました。
  「ぜったいにいやです。だってこのウマは、ぼくの友だちなんだもの」
   すると王さまは、顔をまっ赤しておこりだしました。
  「王さまの命令だ! ウマをわたせ!」
  「まってください。王さま」
   クーナンは、赤い子ウマにしがみついてさけびました。
  「この子ウマのかわりに、どんなけものでもつかまえてきてさしあげます。ですから、ぼくの子ウマをつれていくことだけはやめてください」
  「ほほう」
   王さまは、ニヤリとわらいました。
  「それでは、草原にすむばけものをいけどりにしてこい。もしそれができなければ、子ウマをとりあげるぞ」
  「ば、ばけものを?」
   クーナンは、思わずききかえしました。
   それというのも、草原にすむばけものは、どんな勇士でもたいじすることができない、おそろしい竜(りゅう)だったからです。
   人びとは、クーナンにいいました。
  「ばけものをつかまえるなんて、おまえにできるはずがない。はやく王さまに子ウマをあげたほうがいい」
   クーナンは、こまってしまいました。
  「さあ、へんじをしろ。赤い子ウマをよこすか、ばけものをたいじするか。どっちだ?」
   王さまが大声でどなったので、クーナンもまけずにどなりました。
  「ばけものを、たいじしてきます!」
  「ほんとだな?」
  「ぼくは、うそはいいません」
  「よし。ではあすの朝までに、ばけものをいけどりにしてこい」
  「はい」
   クーナンは、王さまに約束してしまいました。
   なかよしの子ウマを王さまにとられてしまうくらいなら、ばけものにくわれてしまったほうが、ましだと思ったからでしょう。
   しかし、クーナンの家には病気のお父さんがいます。
   もし、クーナンがばけものにくわれてしまえば、病気のお父さんはどんなに悲しむでしょう。
   クーナンは、すっかり考えこんでしまいました。
  「どうしたらいいだろう」
   すると、赤い子ウマがいいました。
  「ぼくに、まかしておけ。長い竹のさおの先に、なわで輪(わ)をこしらえるんだ」
   クーナンは赤い子ウマのいうとおりの物をつくり、それをかついで子ウマにまたがりました。
  「さあ、いそぐよ」
   赤い子ウマは、すごい早さで走り出しました。
   すぐに、大きな川につきました。
   川をわたろうとすると、さかなやカエルが骨だけになって流れていきます。
  「まてよ」
   クーナンが近くの草むらの草を引き抜くと、川に投げ入れました。
   すると、草はたちまちとけてなくなりました。
   この川は、入った物をなんでもとかしてしまう、おそろしい川だったのです。
   そのとき、赤い子ウマがなきました。
  「ヒヒーン!」
   すると、つよい風がふいてきて、クーナンと子ウマをむこう岸まではこんでくれました。
  「よし、いくぞ」
   先を進むと、こんどは近くの山が噴火(ふんか)して、まっ赤にもえた岩が雨のようにふってきました。
  「どうしよう? このままじゃ、焼け死んでしまう」
   そのとき、赤い子ウマがまたなきました。
  「ヒヒーン、ヒヒーン」
   すると、空にうかんでいる白いくもがあつまってきて、二人を乗せると、あんぜんなところにはこんでくれました。
  「ああ、たすかった」
   また、どんどん草原をかけていくと、こんどは青い花がいちめんにさいている野原に出ました。
   あまりきれいな花なので、クーナンが子ウマをとめてウットリと見とれていると、風がふいてきてささやきました。
  「この花のミツをのむと、どんな病気でもすぐなおってしまうよ」
  「そりゃすごいや。病気のお父さんにもってかえろう」
   クーナンはウマからとびおりて、青い草花をあつめはじめました。
  「おい、赤い子ウマ。ボンヤリしていないで、おまえもてつだってくれよ」
   クーナンがそういったとき、赤い子ウマが、
  「ヒヒーン。ヒヒーン。ヒヒーン」
  と、ないて、うしろ足で立ちあがりました。
   見ると、黒いたつまきがこっちにむかって、おしよせてくるではありませんか。
   クーナンは青い花をなげすてて、いそいで赤い子ウマにとびのりました。
  「なんだろう。あれは」
   赤い子ウマがこたえました。
  「あれはばけものだ。おちないように、しっかりつかまっていてよ」
   赤いウマは大きくジャンプすると、空中をとびまわりました。
  「ブオオオオオー!」
   近づいてきた黒いたつまきの中から、九つの首を持つ竜が出てきました。
   赤い子ウマは、竜のまわりをグルグルととびまわります。
   それにつられて、竜の首も右にグルグル、左にグルグル。
  「うわあ、目がまわる」
   竜の九つの首がグルグルとからまってしまい、息ができなくなってきぜつしてしまいました。
  「しめた。いまだ!」
   クーナンは、さっと竹の先のなわの輪を竜の首にひっかけ、ズルズルとひきずって村へかえってきました。
  「ばんざーい。クーナン、よくやった!」
   村人たちは、大よろこびです。
   王さまは目を白黒させていいました。
  「おまえは、ほんとうにゆうかんな子どもだ。ほうびをやるぞ」
  「ほうびなんて、いりません」
   クーナンは、病気のお父さんといっしょに赤い子ウマにのって、村を出ていきました。
   そして竜のすんでいたあの青い花のさく野原で、お父さんと子ウマと三人で、たのしくくらしたそうです。
おしまい