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12月16日の世界の昔話
  
  
  
  もみの木
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 むかしむかし、ある森の中に、小さいもみの木がありました。
  「あっ、ぼくの頭の上をまた、ウサギがとびこした。いやだな、はやく大きくなりたいな」
   もみの木は、上を見あげては大きい木をうらやましいと思いました。
   お日さまが、それを見ていいました。
  「あせらないでもいいよ。いつかいやでも大きくなるさ。それよりも、若い時をだいじにするといいよ」
   でも、小さいもみの木には、その意味がよくわかりません。
   クリスマスが近づくと、森の若い木が、つぎつぎにきられました。
  「ねえ、スズメさん、あの木たちはどこへいくんだい?」
  「あれは、クリスマス・ツリーになるのさ。キラキラしたモールや玉でかざられて、そりゃあ、きれいになるのさ」
  「ふうん。ぼくも、はやくそんなふうになりたいなあ」
   それを聞いて、お日さまはいいました。
  「このひろびろとした森で、おまえは若い時を、楽しんでおくといいよ」
   やがて、もみの木は大きくなり、美しいえだをひろげました。
   とうとう、ある年の冬、きこりがこのもみの木に目をとめました。
  「やあ、クリスマス・ツリーにぴったりだ」
   もみの木はきられて、町に運ばれ、ある家に買われました。
   絵やおき物のあるりっぱな広間に、もみの木はおかれました。
  「さあ、ツリーをかざろう、きれいにかざろう」
   子どもたちのはしゃぐ声が聞こえます。
   もみの木は、むねがドキドキしてきました。
  「あっ、鈴がついたぞ。ロウソクもともった。サンタクロースの人形もいる。星もあるぞ」
   自分につけられるかざりに、もみの木は目をみはりました。
  「メリー・クリスマス!」
   子どもたちは、ツリーのまわりで歌ったり、おどったり、そのにぎやかなこと。
   そして、みんなでクリスマスプレゼントのつつみをひらきました。
  「わあい、いいな、うれしいな」
  「これ、わたし、ほしかったの」
   しばらくして、子どもたちは、ツリーのかざりもわけてもらいました。
   鈴だの、モールだの、それぞれがすきなものをもらいました。
   つぎの朝、この家の使用人が、えだだけになったもみの木を屋根裏部屋にかたづけました。
  「暗いし、ひとりでさびしいな。それに寒い」
   もみの木が、ブルッと身ぶるいした時です。
   ネズミがとび出してきました。
  「あっ、もみの木さんだ。クリスマスはおわったのね。ぼくたちに昨日の話を聞かせてよ」
  「うん、じゃあ、聞いてね」
   もみの木は、少し元気が出てきました。
   クリスマスの話をいろいろしたあと、自分が育った森のこともはなしました。
  「おもしろいね。それで? それから?」
   ネズミたちは、熱心に耳をかたむけました。
   でも、いく日かすると、あきてきて、
  「もっとベつの話がいいよ。ベーコンやチーズがあるところはどこかとか」
  「そんなことは、ぼく、知らないんだ」
  「つまんないの、じゃあね」
   ネズミたちは、どこかへいってしまいました。
   もみの木は、また、ひとりぼっちです。
   ある日、使用人が屋根裏部屋にあがってきました。
   もみの木は、ひきずられて中庭へ出されました。
  「ああ、花がさいている。鳥も歌っている。やっぱり外の空気はいいなあ。何かいいことが、おこりそうだ」
   もみの木は喜びましたが、それどころではありません。
   もみの木は、コーン、コーンと、いきなりオノできられて、まきにされてしまったのです。
   まきになったもみの木は、台所のかまどにくベられて、パシパシともえはじめました。
  「ああ、何もかもおしまいだ。お日さまが若い時をだいじにしろといったのは、こういうことだったんだ」
   もみの木は、ふかいため息をつき、音をたててもえていきました。
おしまい