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9月7日の世界の昔話
  
  
  
  バカなオオカミ
  スペインの昔話 → スペインの国情報
 むかしむかし、あるところに、あまりかしこくないオオカミが住んでいました。
 ある朝、オオカミが大きなしっぽをふってみると、ビュンビュンと、すてきな音がします。
  「おっ、きょうはなにかいいことがありそうだぞ。だって、しっぽがこんなによくなってるもんな。きっと、うまいあさめしがみつかるだろう」
 オオカミはニコニコしながら、朝ごはんをさがしにでかけました。
 しばらくいくと、おいしそうな肉が一切れ、道におちていました。
  「よし、さっそくあったぞ! ・・・でも、こんなちっぽけな肉じゃ、いやだな。すぐに、もっとうまいごちそうがみつかるさ」
 オオカミは一切れの小さな肉切れなんか、ひろおうともしませんでした。
 やがてむこうから、お母さんウマが、かわいい子ウマをつれてやってきました。
  「よしよし、あれだ。あの子ウマの肉は、やわらかくてうまそうだぞ」
 オオカミは二匹のウマの前に立ちはだかると、こういいました。
  「お母さんや。わるいが、おまえさんの子ウマをあさめしとしてたべるぜ」
 お母さんウマは、目になみだをためてたのみました。
  「どうぞ、みのがしてください。この子はわたしのだいじな、だいじな一人息子なんですから」
  「ダメダメ、おれはもう、たべたくてたまらないんだ」
 お母さんウマは、ちょっと考えていましたが、すぐにあきらめたようにいいました。
  「・・・運がわるかったと思って、あきらめます。でも、子どもをたべるまえに、わたしの後ろ足にささっているトゲをぬいてくれませんか。あるくたびに、いたくていたくて、たまらないのです」
  「ああ、いいよ。ぬいてあげよう」
 オオカミは、お母さんウマのうしろにいって、からだをかがめました。
  と、そのとたんに、お母さんウマは後ろ足をあげて、思いきりオオカミをけとばしました。
 ガツン!
 オオカミは気を失ってしまい、気がついたときには、もうお母さんウマと子ウマのすがたは、どこにも見えませんでした。
  「だまされた! おれは、なんてバカなんだ」
 えものをのがしたオオカミは、トボトボとあるきだしました。
 まもなく、牧場(ぼくじょう)が見えてきました。
 うれしいことに、まるまるとふとったヒツジのむれが草をたべています。
  「しめたっ。あれこそ、ほんとうのごちそうだ」
 オオカミは、そっとヒツジたちのそばにちかよっていいました。
  「さあ、おまえたちのうちの、だれからたべてやろうか?」
 ヒツジたちは、ビックリ。
  「ゆるしてください。ぼくたちは、あなたになにもわるいことをしていません。たべるのだけは、かんにんしてください」
  「だめだ、だめだ! おれは、もう腹ぺこで、たおれそうなんだから」
 オオカミがキバをむくと、ヒツジたちは悲しそうにいいました。
  「・・・しかたがありません。でも、さいごのお願いを一つきいてください。ぼくたちは、この牧場をもらったばかりなのですが、死ぬまえに、自分たちの土地をきめておきたいんです。あなたは牧場のまんなかに立っていてください。ぼくたちは、あちこちからはしっていきます。一番早くあなたのところへついた者が、一番いい土地をもらうことにしたいんです」
  「わかった。はやくはじめろ」
 オオカミは、牧場のまんなかに立ちました。
 よーい、ドン!
 ヒツジたちは、オオカミめがけてはしっていきました。
 そしてオオカミの前からも後ろからも横からも、いっせいにドシン! と体当たりしたのです。
  「うーん・・・」
 オオカミは気を失ってしまい、気がついたときには、もうヒツジたちはにげたあとでした。
  「だまされた! おれは、なんてバカなんだ」
 オオカミは、からだじゅうが痛むのをガマンして、またあるきはじめました。
 まもなくこんどは、野原でヤギのむれが草をたべているのをみつけました。
  「よし、こんどこそ」
 オオカミはヤギのそばまでいって、大声でいいました。
  「みんな、かくごしろ! かたっぱしから、たべてやるからな」
 ヤギたちはブルブルとふるえあがって、オオカミにたのみました。
  「どうか、たべないでください。あたしたちは、なにもわるいことはしていません。ゆるしてください」
  「だめだ、だめだ! おれは、腹ぺこで死にそうなんだ」
 オオカミがキバをむくと、ヤギたちは悲しそうにいいました。
  「・・・では、その岩の上で、さいごのお祈りをさせてください」
  「よし、早くすますんだぞ」
 ヤギたちは岩の上にあがって、メエー、メエーと、お祈りをはじめました。
 すると、そのヤギの鳴き声を聞きつけたヤギの番人が、オオカミの頭をふとい棒でなぐりつけました。
 ガツン!
  「うーん・・・」
 やがて気がついたときには、もうヤギのすがたはどこにも見えませんでした。
 おなかはペコペコで、おまけにからだは痛くてたまりません。
 オオカミはカシの木の下にすわりこんで、悲しそうにいいました。
  「ああ、おれはなんてバカなんだ。ウマや、ヒツジや、ヤギにまで、だまされてしまうんだから。これじゃ、いっそのこと死んでしまったほうがいいや」
 そのとき、一人のきこりがカシの木にのぼって、枝をきっていました。
 きこりは、オオカミのひとり言を聞くと、
  「ようし、のぞみどおりに死なしてやるよ」
  と、いいながら、オオカミめがけてオノを投げつけました。
 ガツン!
 オノは、オオカミの頭にみごとに命中。
   オオカミは腹ぺこのまま、のぞみどおり死んでしまいました。
おしまい