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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 若者になったおじいさん 
      2008年 12月10日の新作昔話 
          
          
         
  若者になったおじいさん 
  群馬県の民話 → 群馬県情報 
       むかしむかし、あるところに、おじいさんがいました。 
         毎日、山へ出かけては、鳥や動物を捕まえていました。 
         ある日の事、おじいさんは鳥を追いかけているうちに、道にまよってしまいました。 
         すると一匹のカモシカがあらわれて、おじいさんの方に背中を向けます。 
        「おや? わしに乗れというのだな」 
         おじいさんが喜んで乗ると、カモシカは風のようにかけだして、あっというまに立派な御殿につきました。 
         すると中から、美しい娘さんが出てきて、 
        「お待ちしていました。さあさあ、こちらへ」 
        と、言って、おじいさんを風呂場に案内したのです。 
         その風呂は、まるで殿さまが入るような立派な物で、ちょうどよい湯かげんです。 
         そしておじいさんがお湯に入って、顔や体を洗うとどうでしょう。 
         しわしわの皮がぺろんと取れて、つやつやした肌になったではありませんか。 
        「おおっ、なんだか急に元気が出てきたぞ」 
         風呂から出て新しい着物を着せてもらったおじいさんは、すっかり若者の姿にかわっていたのです。 
         部屋に案内された若者は、またまた目をまるくしました。 
         金と銀で出来た部屋は、まばゆいほどに光り輝き、部屋のまん中には山のようなごちそうがならんでいます。 
        「さあ、どうぞめしあがれ」 
         若者がごちそうを食べていると、娘さんが琴をひいてくれました。 
        「まるで、ゆめを見ているみたいだ」 
         さあ、そんな日が何日も続いたある日の事。 
         娘さんが若者に、小さい箱をわたして言いました。 
        「あなたのそばにいたくて、いままでがまんしてきましたが、今日はどうしても出かけなくてはなりません。この箱には、桜とスミレと梅の形のかぎが入っています。どんな事があっても、梅のかぎだけは使わないでください」 
        「わかった。どのかぎも使わないよ」 
         若者が約束したので、娘さんは安心して出かけて行きました。 
         若者は一人ぼっちになると、さびしくてたまりません。 
         そこで今まで入ったことのない部屋の前に行き、桜の形のかぎをさしこみました。 
         すると、どうでしょう。 
         部屋の中から、あたたかい春の風がふいてきました。 
         中へ入ると、タンポポや桜草などが一面に咲いていて、その中に一匹の馬がいました。 
         その馬に乗ってみると、桜の木が何百本とはえているところへ連れて行ってくれました。 
         どの木にも、満開の花が咲いています。 
        「なんてきれいなんだ」 
         若者は夕方まで、お花見をしてもどると、部屋のとびらをしめました。 
         次の日、スミレの形のかぎで部屋を開けると、今度はスミレの咲いている野原にかわっていました。 
         小鳥たちが楽しそうに飛び回っていて、若者は時間のたつのもわすれて、夕方まで小鳥をながめていました。 
         さてその次の日、若者は梅の形のかぎをにぎったまま、部屋の前を行ったりきたりしていました。 
        「梅のかぎだけは使わないでくれと言っていたが、梅のかぎを使うとどうなるのだろう? きっと、今まで以上に素晴らしいのだろうな」 
         若者はどうしてもがまん出来ず、とうとう娘さんとの約束をやぶって、そのかぎで部屋を開けました。 
         すると、どうでしょう。 
         昨日とはまるでちがい、枯れ木ばかりが風にゆれています。 
         するとその時、二匹の白ギツネが飛び込んできて、若者にたずねました。 
        「わたしたちの娘が、この部屋に入ったきり、もう何年も出てきません。娘に会いませんでしたか?」 
        「いいや、キツネなんかには・・・。まさか、あの美しい娘さんがキツネか?」 
         若者がびっくりしていると、そこへ娘さんがもどってきました。 
        「どうして、約束を守ってくれなかったのですか。・・・残念ですが、もうお別れです」 
         娘さんは若者に、おみやげの箱をわたすと、ぱっと白ギツネの姿にかわり、二匹の白ギツネと一緒にかけて行きました。 
         気がつくと若者は箱をかかえたまま、山の中の草むらに立っていました。 
        「なんじゃ? ゆめだったのか? ・・・いや、ゆめじゃない証拠に、おみやげの箱があるぞ」 
         若者が箱のふたをとると、中からしわだらけの皮が飛び出してきて、若者の体にペタリと張り付きました。 
       すると若者は、元通りのおじいさんにもどってしまいました。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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