2009年　4月8日の新作昔話



すす竹売り
吉四六(きっちょむ)さん　→　吉四六さんについて

　むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
　以前、きっちょむさんは、キジを売っていると勘違いさせて、カラスを売りつけて大もうけしたことがありますが(→おとりのキジ)、これはそれからしばらくたったある日のお話しです。

　今度はきっちょむさん、町にすす竹を売りにやってきました。
「ささや〜ぁ、すす竹〜ぇ」
　きっちょむさんが声を張り上げて町の中を歩いていると、その姿を見た一人の商人が隣の店に飛び込みました。
「河内屋(かわちや)さん！　ちょっと、ちょっと」
「これはこれは、虎屋(とらや)さん。どうしました？」
「ほれ、いつか、かごの上にキジを乗せて、安い値で、『カラス、カラス』といって売りにきた男がいましたね。それを見て、『きっと、カラスとキジの見わけがつかない田舎者だ』と思って、『カラスをくれ』と言うと、中から本物のカラスを取り出して売りつけたではありませんか」
「ああ、ありました。覚えていますよ」
「そう、その男が、今、すす竹売りに来たんですよ。どうです、あの時の腹いせに、うーんと油をしぼってやろうじゃありませんか」
　そう言って、虎屋とよばれた男は、河内屋にある作戦をささやきました。
「なるほど、これはおもしろい」
「でしょう。そら、やってきましたよ。・・・おい、すす竹売り！」
　虎屋がきっちょむさんに、声をかけました。
　すると、きっちょむさんは、すぐにやってきて、
「へい、ありがとうございます」
と、頭を下げました。
「ささを一本くれないか。いくらだ？」
「はい。十文でございます」
「それ十文だ。とっときな」
「はい、ありがとうございます」
「おい、おれには、すす竹一本くれ」
　今度は、河内屋が声をかけました。
「はい、ただいま」
　きっちょむさんが何気なくすす竹を一本わたすと、河内屋はいきなり怒り出しました。
「おいこら！　これは虎屋に売ったのと同じではないか！　虎屋は『ささ』で、おれは『すす竹』といったんだ！」
　虎屋も、きっちょむさんに詰め寄りました。
「そうだ！　『ささや、すす竹』というからには、違う物でなければならん。見れば、みんな同じ物だ。お前はかたりだ！　ふといやろうだ！」
　全くのいちゃもんですが、でもきっちょむさんは、平気な顔で尋ねました。
「これはこれは、だれかと思ったら、虎屋のだんなで」
「うん、いかにもおれは虎屋だ」
「お名前は、権兵衛さんで？」
「ああ、権兵衛だが、それがどうかしたか？」
「ヘヘへ、そちらさまは、河内屋久六さんで？」
「そうだ。河内屋が屋号(やごう)で、名が久六だ。さあそれよりも、はやくささでないすす竹を寄こせっ！」
　するときっちょむさん、とつぜん腹をかかえて笑い出しました。
「な、なにを笑う！」
「いや、実はわたしの売っている竹は、屋号が笹屋で、名前がすす竹と申すのです。屋号で呼んでも名前で呼んでも、物はどちらも同じ物ですよ」
　それを聞いた二人の商人は、
「ちくしょう、またやられたわ！」
と、言って、おとなしく店の中に帰って行きました。

おしまい