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2009年 4月22日の新作昔話
つばきの花
黒いつばきの花
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
さて、国のお殿さまがきっちょむさんのうわさを聞いて、家来たちに言いました。
「いくらとんちの名人でも、わしをだます事はできまい。さっそく、連れてまいれ」
そこで家来が、きっちょむさんを連れてきました。
きっちょむさんが殿さまの前にいくと、殿さまは後ろにある刀を指差して言いました。
「お前はとんちの名人だそうだが、わしをうまくだませたらこの刀をやろう。だが失敗したら、お前の首をもらうぞ」
それを聞いたきっちょむさんはびっくりです。
「と、とんでもない。殿さまをだますなんて。どうか、お許し下さい」
きっちょむさんは泣きそうな声であやまりましたが、でも殿さまは承知しません。
そこできっちょむさんは、殿さまに言いました。
「わたしには、殿さまをだます事は出来ません。いさぎよく首を切られましょう。だけど、首を切られる前に一つだけお願いがあります」
「わかった。言ってみろ」
「実は今朝、わたしの家の庭にまっ黒なつばきの花が咲きました。わたしがこんな事になったのも、縁起の悪い花が咲いたからです。せめてこの花をたたき切ってから、首を切られたいと思います」
「なに? まっ黒なつばきの花だと。そんな花が、咲くはずがない。わしをだまそうたって、そうはいかないぞ」
「いいえ、本当です。うそだとおっしゃるなら、とってきて見せましょうか?」
「よし、すぐとってこい」
そこできっちょむさんは、急いで家に帰っていきました。
でも黒いつばきの花なんか、どこにも咲いていません。
きっちょむさんは、そのまま殿さまのところへ戻って、
「すみません。とても硬い木で、のこぎりやオノでは切れません。どうか、その刀を貸して下さい」
と、言いました。
すると殿さまは、イライラして、
「よし、貸してやろう。そのかわりすぐ切り取ってこないと、首をはねるぞ!」
さて、刀を貸してもらったきっちょむさんは大喜びで帰って行き、それっきり殿さまのところへは戻ってはきませんでした。
次の日、殿さまが怒って家来をきっちょむさんの家に行かせると、きっちょむさんはすました顔で言いました。
「黒いつばきの花なんて、咲くわけないでしょう。約束通り、お殿さまをだまして刀をいただきましたよ」
それを聞いた殿さまは、怒るにも怒れず、とてもくやしがったということです。
おしまい
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