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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 娘ネズミのスープ作り
2009年 10月21日の新作昔話
娘ネズミのスープ作り
アンデルセン童話 → アンデルセンについて
むかしむかし、ネズミの王さまがパーティーを開きました。
パーティーに出されたごちそうは、かびの生えたパンと、ひからびたベーコンの皮と、脂身で作ったろうそくと、串に刺したソーセージです。
「これは、何と素晴らしいごちそうだろう」
「本当だ。一生に一度、お目にかかれるかどうかのごちそうだ」
「こんな素敵なパーティーを開いてくれた王さまに、感謝しなくちゃ」
「王さま、ばんざーい!」
招待されたネズミたちは大喜びで、ごちそうをすっかりたいらげました。
そしてあとに残ったのは、ソーセージの串だけです。
それを見て、一匹のネズミが言いました。
「ねえ、この串を使って、何か、おいしいスープは出来ないかな?」
それを聞くなり、王さまはポンと手を大きくたたきました。
「それは良い考えだ。ではソーセージの串で一番おいしいスープを作った娘を、わしのおきさきにしよう。今から一年間の時間を与えるから、娘たちは料理の勉強の旅をしてまいれ」
それを聞いた若い娘たちは、チューチューと大騒ぎです。
「わたし、王さまがお気にめすスープを、きっと作ってみせるわ」
「いいえ、それは、わたしよ」
「何を言ってるの、わたしに決まっているでしょう」
ところが、ほとんどの娘ネズミは、旅に行くのをやめてしまいました。
家族と離れて旅に出るのが、怖かったからです。
もしかすると、ネコに出会うかもしれませんしね。
それでも勇気のある四匹の娘ネズミが、旅に出る事になりました。
四匹は、それぞれにソーセージの串をつえの代わりに持って、元気良く出発しました。
そして次の年、三匹だけが帰ってきました。
王さまは、さっそく町中のネズミたちを呼び集めました。
「さあ、どんな勉強の旅をしてきたか、話してくれ」
王さまの言葉に、最初の娘ネズミが話しをはじめました。
「わたしは、この国を出ると、すぐ船に乗って百キロも離れた北の国へ行きました。
その国には、森や林や大きな湖がたくさんありました。
その日はちょうど、お祭りでした。
わたしがソーセージの串をかかえて若者たちのダンスを見ていると、突然、小人が現れて言いました。
『その串を、どうか貸してください』
そこで串を渡すと、小人たちは土の上に串を刺して、ダイヤモンドや花でかざったはたをかざりつけたのです。
すると串から、すてきな音楽が鳴り出したのです。
わたしが聞きほれていると、風がはたを吹き飛ばしてしまいました。
小人たちは、串を返しに言いました。
『この串で王さまの胸をこすると、良い事がおこりますよ』と、
さあ、どんな事がおこるか、さっそく胸をこすらせてください」
「うむ。では、こするがよいぞ」
王さまの許しが出たので、娘ネズミはソーセージの串で王さまの胸をこすりました。
すると串の先に、美しいすみれの花が咲いたのです。
そのすみれの花からは、とても良い香りがしましたが、でもそれはネズミたちの嫌いなにおいなのです。
王さまは、鼻をつまんで叫びました。
「うわ。何て嫌なにおいだ! 花を部屋から出せ! まったく、・・・さあ、次の者、話をいたせ」
そう言われて、二番目の娘ネズミが話し出しました。
「はい。わたしはソーセージの串でスープを作るには、物知りになるのが一番だと考えました。
そこで、西の方の広い世界に出かけたのです。
西の世界では、おばあさんネズミに、アリの女王、そして人間などとも会って話を聞きました。
でも、話を聞くだけでは物知りにはなれないので、ためしに本を食べてみました。
すると頭とお腹が痛くなったので、スープを作るのはやめてしまいました」
それを聞いた王さまは、がっかりして言いました。
「それは、残念だ。・・・では、三番目の娘よ、話しをしなさい」
そのとき、チュー、チューと、最後の四番目の娘ネズミが飛び込んできました。
「王さま、お聞きください。わたしは大きな町のろうや番をたずねていきました。
そのろうや番の口ぐせが、
『それはまるで、ソーセージの串で作ったスープじゃないか』
と、言うのを聞いたからです。
ろうや番は、わたしを見ると、やさしく手をさしのべました。
わたしが喜んで手に乗ると、何と、ろうや番はわたしを小さなかごに押し込めてしまったのです。
わたしがキーキー叫んでいると、ろうや番の娘さんがこっそりと逃がしてくれました」
「ほう、それから、どうしたのじゃ?」
「はい、次にわたしは古いお城の塔で、年寄りのフクロウと知り合いになりました。
そこで、わたしが、
『ソーセージの串で、スープを作りたいのですが』
と、言うと、フクロウは笑って、
『ソーセージの串で作ったスープというのは、人間たちのことわざで、《そんな事は、何でもない》と言う意味さ』
と、教えてくれました。
それでわたしは驚いて、こうしてあわてて帰ってきたのです。
これが正しい答えです。王さま」
それを聞いた王さまは、がっかりです。
「うむ、仕方がない。それでは、この話は無かった事にしよう」
そのとき、最後に残った娘ネズミが、王さまの前に進み出ました。
「わたしはちゃんと、ソーセージの串でスープを作ってお目にかけますわ」
王さまをはじめ、居並ぶネズミたちは、いっせいに最後の娘ネズミを見ました。
「さあ、おなべにお湯をわかして、ソーセージの串を入れてください。次に王さま、おそれ入りますが、しっぽでお湯をかきまぜてください。しっぽでかきまぜると、スープが一段とおいしくなります」
「うむ。こうか?」
こうして、誰よりも苦労をしないでスープを作った娘が勝ちとなり、スープを作った娘ネズミと王さまは結婚して幸せに暮らしました。
おしまい
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