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2010年 4月19日の新作昔話
わた買い
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
さて、町には、とても欲張りなわた屋がいました。
客が田舎者だと思うと、とても高い値段でわたを売りつけては喜んでいるのです。
きっちょむさんの村でも、このわた屋にだまされた人が何人もいるので、きっちょむさんは、一度はこのわた屋に行って、わた屋をこらしめてやろうと考えていました。
するとある日の事、おかみさんに、わたを買って来て欲しいと言われたので、きっちょむさんは喜んで、そのわた屋に出かけました。
「これは、いらっしゃいまし」
「すまんが、わたの実を売ってもらえるかねえ?」
「わたの実? わたではなく、実の方ですか?」
「そうだが、都合が悪いかい?」
「いえいえ、いくらでもお売りいたしますよ」
この頃のわた屋は、どこでも実の付いたままのわたを農家から買い集めて、店先で実を落としていたのです。
だから、わたの実はいくらでもありました。
「ところで、わた屋さん。わしは、わたから落としたての実でなければ、都合が悪いのですよ」
「そうですか。では、今すぐ落としてさしあげましょう」
「すまんね。では、五升(→九リットル)ほど頼みます」
そこでわた屋は、すぐに店の小僧に指示して、十貫目(→三七・五キロ)もあるようなわたを棚から降ろして、その実を落としにかかりました。
わたの実なんか今まで誰も買いに来た者がなく、みんな捨てていたので、そのわたの実が売れるとあって、わた屋はニコニコ顔です。
「さあ、出来ました。ちょうど五升あります」
わた屋は実を、きっちょむさんの前におきました。
「ありがとう。それで、値段はいくらだい?」
「はい、十五・・・」
わた屋は、どうせ捨てる物だから、十五文ももらえば十分と思って、十五文と言いかけたのですが、きっちょむさんをわたの実を買いに来る変な田舎者だと思い、高く売りつけてやろうと言い直しました。
「はい、百五十文でございます」
「ええっ! それは高い!」
「いえいえ、これでも大勉強でございますよ」
「そうか。・・・ところで、実が付いたままのわたは、わたの実が五升分で、いくらするんだい?」
「はい、それは二百文でございますが、じつは近頃、落としたてのわたの実が大人気で、ほうぼうから注文がまいりますので、わたよりも実の方が高くなったのですよ」
欲張りのわた屋は、きっちょむさんに高い値段で実を売りつけようと、こんなうそをつきました。
「そうか、困ったなあ」
きっちょむさんは、本当に困ったような顔をしましたが、いきなり、
「では仕方がない。残念だが、今日はわたの方だけ買っていこう! 二百文から実の代価の百五十文をひくと、五十文を払えばいいんだな」
と、言って、わた屋の主人に五十文を投げ出し、実を落とした後のわたを自分で大ぶろしきに包んで、目を白黒させているわた屋を尻目に、さっさと帰ってしまいました。
おしまい
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