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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > ウサギとカメの競争
2011年 5月16日の新作昔話
ウサギとカメの競争
ケニアの昔話 → ケニアの情報
むかしむかし、ある森に、とてもせっかちなウサギがいました。
このウサギが水を飲もうと川にやって来ると、カメがのんびりと水を飲んでいました。
ウサギは水を飲み終えると、まだ水を飲んでいるカメに言いました。
「やあ、カメくん。
きみはいつも、本当にノロマだねえ。
おまけに手足が短くて、とても不格好ときている。
まったく、きみみたいなやつがぼくと同じ動物の仲間だなんて。
・・・ああ、ぼくは恥ずかしいよ」
ウサギはそう言うと、ピョーンピョーンと、むこうのアカシアの木(→枝に針がある、マメ科の常緑木本)のところまで走っていきました。
「はっはっはっは、ねえ、ぼくは速いだろう。
なにしろぼくは、この森で一番素早いからね」
ウサギが得意そうに言うと、カメが、つぶやくように言いました。
「たしかに。でも、チーターには、かなわないだろう」
これが、せっかちなウサギの耳には、
「たしかに。でも、ぼくには、かなわないだろう」
と、聞こえたのです。
「何だと! このぼくが、ノロマのきみにかなわないだと?! よーし、そこまで言うのなら、ひとつ競争してみようじゃないか!」
「いや、わたしは別に、そんな事は」
カメが、いくらそんな事は言っていないと言っても、ウサギは聞き入れてくれません。
こうしてカメとウサギは、丘のてっぺんまで競走することになりました。
絶対に勝てると自信満々のウサギは、この勝負を他の動物たちに言いふらしました。
「この森で一番素早いぼくと、この森で一番ノロマなカメが丘のてっぺんまで競争するから、みんな見に来いよ」
するとそれを聞いたカメの仲間が、心配してやって来ました。
「おいおい、ウサギと競争すると聞いたけど、大丈夫かい?」
「うん、まいったよ。
ウサギくんたら、早とちりだからね。
でも、ここまで話が広まっては、やるより仕方がないさ」
「やるのはいいが、勝ち目はあるのかい?」
「相手はウサギくんだよ、勝ち目なんかないさ。・・・でも、みんなが力を貸してくれれば、話しは別さ」
「いいとも、力を貸すよ。それで、何をすればいいんだい?」
「うん、ウサギくんが来たら、ぼくはもう、とっくに先の方へ行ったって、そう言ってほしいんだ。ウサギくんが、出来るだけ急ぐようにね」
「急ぐようにって、そんな事をして大丈夫なの?」
「わたしが勝つには、この作戦しかないんだ。じゃあ、頼むよ」
カメの作戦とは、一体どんなものなのでしょうか?
さて、いよいよ競争の日がやってきました。
森の王さまのゾウが、審判をつとめます。
「よーい、ドン!」
ゾウの合図と同時に、ウサギはピョンピョンと走り出しました。
「へっへー、カメの奴、もう見えなくなったぞ。この競争は、ぼくの勝ちだな!」
ところがしばらくすると、こんな声援が聞こえました。
「ウサギさん、早く早く! カメはもうとっくに、先の方へ行きましたよ」
それを聞いたウサギは、びっくりです。
「そりゃ、大変だ! カメのやつ、思ったよりも速いんだな」
ウサギはあわてて、ピョンピョンピョンとスピードをあげました。
しかしいくらスピードを上げても、カメの姿は見えません。
「おかしいな。もしかすると、知らない間に追い越したかな?」
ウサギが首をひねっていると、また声援が聞こえました。
「ウサギさんしっかり。カメは、もうとっくに行ってしまいましたよ」
「それは大変! 負けるものか!」
ウサギは前よりも速く、ピョンピョンピョンピョン走っていきました。
しかし、ウサギはあまりにも速く走りすぎたので、だんだんお腹が痛くなってきました。
「ウサギさん、どうしたの? カメは、もうとっくに行ってしまいましたよ」
「うん、わかっているけど、お腹が・・・」
ウサギは苦しくて苦しくて、ついに一歩も動けなくなってしまいました。
ウサギがお腹を押さえて苦しんでいると、何と前を走っているはずのカメが後ろから現れて、ゆっくりゆっくりとウサギの横を通りすぎていきました。
「やあ、ウサギくん。お先に失礼するよ」
ウサギはカメを追いかけようとしましたが、お腹が痛くてまだ動けません。
やがてカメはゆっくりゆっくり歩いて、見事にゴールしたのです。
カメの作戦とは、ウサギを思いっ切り速く走らせて、ウサギのお腹を痛くする事でした。
みんなも思いっ切り走ると、お腹が痛くなるでしょう。
次の日、ウサギはカメのところへ行くと、頭を下げてあやまりました。
「ごめん! いつもきみの事をバカにしたりして、本当にごめんよ。もう決して悪口は言わないから、どうか許して」
それを聞いてカメは、ニッコリ笑いました。
「とんでもない。まともに勝負をしていたら、きっとわたしの負けさ。今回は、たまたま作戦がうまく行っただけだよ」
この日からウサギとカメは、すっかり仲良しになったという事です。
おしまい
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