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2012年 4月25日の新作昔話
なぞかけの焼きいも屋
むかしむかし、ある町に、屋台の焼きいも屋が現れました。
「えー、八里半の焼きいも、焼きたての、八里半の焼きいもだよ」
これを聞いた焼きいも好きな男が、焼きいも屋に声をかけました。
「おーい、焼きいも売り。八里半の焼きいもとやらを、もらおうじゃないか」
「へい、ありがとうございます」
「しかし、八里半の焼きいもとは、何のことだ?」
「へい。この焼きいもの味が、クリ(九里→くり)に近いという、なぞかけでごぜえますだ」
「なるほど。九里から少し引いて、八里半か。うまい事を言うな。よし、一本たのむよ」
「へい。まいどあり」
男が八里半の焼きいもを割ってみると、確かにクリみたいに黄色くて、おいしそうです。
けれども食べてみると、クリほどはおいしくありませんでした。
「確かに、うまいはうまいが、クリにはおよばねえな。名前通りだ」
男が歩いて行くと、別の焼きいも屋がありました。
「えー、九里半の焼きいもはいかがですか。焼きたての九里半の焼きいも」
「おーい、焼きいも屋。九里半の焼きいもとやらを、もらおうじゃないか。ところで、九里半とは、何のことだ?」
「へい、クリより、半里もうまいという、なぞかけですだ」
「ほほう、それで九里半か」
男が食べてみると、確かにあまくて、クリよりおいしい焼きいもでした。
「ああ、うまかった。さすが九里半だ。名前通りだ」
しばらくすると、今度は、
「えー、十里の焼きいもはいかがですか。焼きたての十里の焼きいも」
と、もう一人の焼きいも屋がやって来ました。
「焼きいも屋。十里の焼きいもとは、何の事だ?」
「ああっ、説明するよりも、食って見りゃわかるだ」
と、えらく態度の悪い焼きいも屋です。
(まあ、八里半、九里半と来て、どんどんうまくなっているから、この十里の焼きいもは、もっとうまい焼きいもにちがいない)
男はそう思って、十里の焼きいもを食べてみたのですが、いもが悪いのか、固くてゴリゴリしています。
とてもまずくて、食べられたものではありません。
「なんだい、このまずい焼きいもは! ゴリゴリしていて、食えたもんじゃないぞ!」
男が文句をいうと、焼きいも屋はすました顔で。
「だから、十里といっただろう。五里(ゴリ)と五里(ゴリ)で十里。焼きいもがゴリゴリしていてあたり前だ」
「なるほど、確かに、名前通りだ」
おしまい
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