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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第29話
吹雪と女幽霊
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むかしむかしのある寒い冬の夜ふけ、村はずれにある久左衛門(きゅうざえもん)というお百姓の家の戸を、
トントン、トントン。
と、叩く者がいました。
ふとんにくるまってねむっていた久左衛門は、目を覚まして、
(誰だ? こんな夜ふけに)
と、起きあがると、
「どなたですかな?」
と、戸口へ声をかけました。
すると、戸のむこうから若い女の声が聞こえてきました。
「夜分にすみません。実はこの吹雪で、先へ進めなくなりました。どうか、しばらく休ませてください」
久左衛門は気の毒に思って、戸を少し開けました。
するとその時、
「ご親切に、ありがとうございます」
と、言う声が、背中の方から聞こえてきました。
久左衛門はびっくりして、後ろを振り向きました。
「お前さん、いつ、家の中に入ったんだ?」
まっ白な着物を着て肩の下まで長い黒髪をたらした若い女は、顔色も白くて雪の精の様です。
「わたしは隣村へ行く途中なのですが、この吹雪では前へ進めません。風がおさまれば、すぐに出ていきます。どうかそれまで、ここで休ませてください」
女の人は立ったまま、静かに言いました。
その女の人の顔と声に、久左衛門は一年前に起こった、隣村の大雪の事故を思い出しました。
「あっ、あんた、もしかして隣村の? おっ、おらは幽霊などに、うらまれる覚えはないぞ!」
久左衛門が怒ったように言うと、女の人は、
「わたしの事を、聞いた事があるようですね」
と、言って、静かに話し出しました。
「わたしは、隣村の弥左衛門(やざえもん)の娘のお安(やす)です。
一人娘なので、年を取った父は三年前、伊三郎(いさぶろう)という婿さんを家に迎えて、わたしと夫婦になりました。
ところが去年の冬、大雪に埋まってわたしが死ぬと、伊三郎は病気の父を捨てて、実家へ帰ってしまったのです。
明日は、わたしの命日です。
伊三郎のところへ行って、うらみを言おうと思っているのです」
しばらくすると吹雪がおさまってきたのか、あたりが静かになってきました。
すると、ギギギィッと戸が開く音がして、気がつくと若い女の姿は消えていました。
夜が明けるのを待って、久左衛門はお安の家へ出かけていくと、何と婿の伊三郎がお安の父親の世話をしているではありませんか。
伊三郎にたずねると、お安の幽霊は久左衛門の家を出たあと、伊三郎の枕元に現れたのでした。
恐ろしくなった伊三郎は、夜明け前にお安の家へ戻って来たというのです。
すっかり心を入れ替えた伊三郎は、一生懸命お安の父親の看病をして、その父親が亡くなると頭をまるめてお坊さんになり、全国を巡り歩く旅に出たという事です。
おしまい
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