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百物語 第60話
ハリセンボンになった嫁さん
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むかしむかし、富山のある港町に、息子のお嫁さんをいつもいじめるお母さんがいました。
ある日の事、隣の部屋で自分の裁縫箱(さいほうばこ)をのぞいていたお母さんがお嫁さんにむかって、
「あんた、わしの針山から針をとったね! 一本、たりないんだよ!」
と、言いました。
むかしの裁縫道具は、女の人の大切な嫁入り道具の一つでした。
誰もが嫁入りの時に自分の裁縫箱を持って来て大切にし、家族でも勝手にさわる事はしませんでした。
「違います。あたしは知りません」
お嫁さんが何度も言いましたが、お母さんは聞き入れません。
「まったく、なんて嫁だろうね。人の物を盗んでおいて、知らないだなんて。人の針を使ったからって、下手な裁縫がうまくなるはずはないのに」
お母さんはそう言って、ネチネチとお嫁さんをいじめました。
お嫁さんはお婿さんに相談しましたが、お婿さんはお母さんの味方で、お嫁さんをかばってはくれません。
「実家に戻っても、両親に恥をかかせるだけだし。・・・あたし、どうしたらいいんだろう?」
すっかりまいってしまったお嫁さんは、ふらふらと冬の海へ行くと、そのまま身を投げてしまいました。
それを知った村人たちはお嫁さんの遺体を探しましたが、静かだった海は大荒れになってしまい、お嫁さんの遺体は発見されませんでした。
そしてその代わりに手まりに針を千本も刺したような不思議な魚が、波うちぎわに何十匹もうちあげられていました。
土地の人たちはこの魚を『ハリセンボン』と呼び、海に身を投げたお嫁さんを供養するために、どこの家でも半日だけ針仕事を休むようになったという事です。
おしまい
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