福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第86話
ともかづき
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むかしむかし、伊勢の海辺の村に、みよという娘の海女がいました。
この伊勢の海には、『ともかづき』と呼ばれるお化けがいて、海女たちから恐れられていました。
そこでみよが海女になったばかりのとき、先輩の海女たちからこう教えられたのです。
「いいかい、みよちゃん。ともかづきは、あたしたちと同じ海女の姿で現れて、『アワビをあげよう』というけど、それを手で受け取ってはいけないよ。手で受け取ると、ともかづきに手首をつかまれて、海の底に引きずり込まれてしまうからね。どうしてもそのアワビが欲しい時は、背中をむけて、背中にはりつけてもらうんだよ」
「はい」
みよは先輩海女の教えを守って、ともかづきに会わないように、気をつけていました。
さて、ある年の秋の事、しけがつづいて、もう七日も海にもぐれません。
「困ったわ。このままでは、ごはんを買うお金がなくなってしまう」
そこでみよは、家族が止めるのも聞かずに、しけのおさまりきらない海へと小舟を出したのです。
しかし、いくら海にもぐっても、アワビもサザエも見つかりません。
そこで、いつもと違う場所へもぐっていくと、海草の間から、おばあさんの海女が大きなアワビをかかえて現れました。
そして、
「おや、こんな日にもぐるなんて、えらい娘さんだね。さあ、このアワビをあげるから、遠慮しないで、持っておゆき」
と、言ったのです。
(まあ、なんて親切な海女さんだろう)
みよは喜んで、そのアワビを手で受け取りました。
そのとたん、おばあさんはニヤリと笑い、
「ああ、やっと身代わりが来た。これで成仏できるよ」
と、みよの手首を力一杯つかみ、みよを海の底へと引っ張ったのです。
「あーっ、しまった! ともかづきだ!」
みよは必死でもがきましたが、そのまま海の底へと沈んでしまいました。
このともかづきは、海で死んだ海女の幽霊で、自分の身代わりになる海女を作らないと、いつまでも成仏できないといいます。
そして今でもこの海では、死んでともかづきになったみよが、自分の身代わりになる海女が来るのを待っているということです。
おしまい
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