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百物語 第91話
袈裟切り地蔵(けさきりじぞう)
岐阜県の民話 → 岐阜県の情報
むかしむかし、元和二年(1616年)のある雨の降る夜、一人の侍が久々利城へと急いでいると、
「助けてください。悪人に追われています」
と、一人の美しい女の人が駆け寄ってきたのです。
(夜だと言うのに、こんなところへ女が一人でいるのは怪しい)
そう思った侍は、刀に手を掛けると用心深く腰を落としました。
すると、それに気づいた女は、まっ赤な口を大きく開くと、
「おほほほほほ」
と、笑いながら侍に飛びかかったのです。
「怪しい奴め!」
侍が女を切り付けると、女の身体は簡単に真っ二つになりました。
しかしその二つに分かれた女の身体は、それぞれ片方が元の一人の女に変わって、今度は二人がかりで襲いかかってきたのです。
「この妖怪め!」
侍は襲いかかる女を次々と真っ二つに切りますが、その度に女の数は、三人、四人、五人と増えていくのです。
そしてその数が十人を超えてしまうと、さすがの侍の刀も刃こぼれでボロボロになってしまいました。
(ぬぬっ、この刀では、あと一太刀が限度。何とかして、妖怪の弱点を見極めないと)
侍が飛びかかってくる女の攻撃をかわしながら、注意深く周りを見てみると、少し離れたところに青白い炎の火の玉が、チロチロと燃えていたのです。
「そこかー!」
侍はその青白い火の玉に飛びかかると、渾身の力を込めて刀を振り下ろしました。
すると、
ガチーン!
と、固い音がして、侍の刀は折れてしまいました。
そしてそれと同時に青白い火の玉も襲いかかる十数人の女も、ロウソクの火をふき消すようにふっと消えてしまったのです。
「やっ、やったか」
侍は折れた刀を拾うと、久々利城へと急ぎました。
翌朝、ここを通りかかった村人が、一体の地蔵さんが転がっているのを見つけました。
そのお地蔵さんは、右肩から左脇腹にかけて、袈裟がけに切られた跡がありました。
「なんとも、もったいないことだ」
村人はそこに祠(ほこら)を建てると、お地蔵さんをまつったそうです。
おしまい
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