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百物語 第113話

おくびょうな男とゆうがおおばけ

おくびょうな男とゆうがおおばけ

 むかしむかし、あるところに、たいそうおくびょうな男がいました。
 夜になると、ひとりでは便所にもいけないありさまです。
 いつも夜中に、おかみさんをおこしては、
「化け物がでるかもしれん、すまんが、いっしょにきてくれや」
と、たのむのでした。
「化け物など、おりゃあせんのに、いい年をして、ほんとにこまったもんだ」
 おかみさんはシブシブ、ちょうちんをさげて、かわや(→トイレ)へいくのですが、ねむくてかないません。
 毎晩、寝不足がつづいていました。
「夜中でも、ひとりでかわやにいけるように、なんとかせんならん。なにか、よいかんがえはないもんじゃろか?」
 おかみさんは、あれこれかんがえました。
 そしてあるとき、大きなゆうがお(→ウリ科の植物で、かんぴょうのもと)の実を、こっそり、かわやのなかにぶらさげておきました。
 男はそんなこと、まったく知りません。
 そのばんおそく、
「化け物がでるかもしれん、すまんが、いっしょにきてくれや」
 またまた、たのみましたが、
「化け物なんて、おりゃあせんて。かわやくらい、ひとりでいけないようで、どうするね。もしものことがあれば、すぐにとんでいくから、今夜はひとりでいってみなさいな」
 おかみさんは、そういって、おきようとしません。
「・・・しかたねえ。ひとりでいってくるとするか。だいじょぶかなあ?」
 男はしかたなし、ひとりでかわやへでかけていきました。
 かわやは、まっくらです。
 戸を開けて中に入ろうとすると、ひたいになにか、ゴツンとぶつかるものがありました。
「ひえーっ! で、でたあ!」
 男はビックリして、こしをぬかしてしまいました。
 そこにおかみさんが、ちょうちんをさげてあらわれ、
「なにがでたっていうんです?」
 かわやを、明るくしてみせました。
「い、いま、ば、化け物が、そこに」
 男がおそるおそる目をあけると、大きなゆうがおの実がぶらさがっていました。
「あら、ゆうがおの実じゃ、ありませんか。あしたの朝、おみおつけにして食べましょうね」
 おかみさんはつぎの朝、ゆうがおの実をきざんで、おみおつけに入れました。
「こりゃあ、うまいもんじゃのう。これが化け物なら、毎晩でてもいいや。おれはもう、おっかねえものなどない」
 男はおみおつけを、三ばいもおかわりしました。
 それですっかり、こわいものしらずになって、
「どこかに化け物がでたら、おれがたいじしてやる」
と、いばるようになりました。
 すると、そのうち、
「村のとうげに、でっかいウシの化け物がでるそうだ。おそろしがって、夜はだれひとりとおるものがないってことだ」
 村に、うわさがひろがりました。
 男は、
「どうせまた、ゆうがおの実じゃろ。おれがたいじして、おみおつけにして食ってやる」
と、まっくらなとうげをのぼっていきました。
「いたいた。あいつだな」
 道のまんなかに、大きなウシの化け物が、どてっとねころんで道をふさいでいます。
「やい、化け物。おまえはゆうがおの実だべ。おれはちっとも、おっかなくねえぞ。じゃまだから、そこをどけやい」
 男がしかりつけると、
「おら、ゆうがおなんかじゃねえ」
 化け物がいいました。
「それならいったい、なにもんだ?」
「おら、金のばんをしているウシだ。おらがねそべってるこの下には、金がめ、銀がめ、銅がめがうずまっとるんじゃ。おら、そのことをおしえてやろうとおもっとるに、ほかのものはおそろしがって、みんなにげちまう。なのに、おまえは、ちっともおそろしがらん。金がめ、銀がめ、銅がめ、みんなおまえにやる」
 ウシの化け物は、そういってきえました。
「はて、化け物がいったこと、ほんとだべか」
 男が、化け物のいたあたりをほりおこすと、金、銀、銅のお金がピカピカひかって、まぶしいのなんの。
 男はそれをもちかえって、おかみさんと一生、しあわせにくらしました。

おしまい

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