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百物語 第117話

アズキとぎ

アズキとぎ

 むかし、あるところに、とてもきみのわるいお寺がありました。
 あるばんのこと、村人たちが集まって、物知りのおじいさんから、お寺の化け物の話を聞いていました。
「よいか、あの寺には、いろんな化け物がおるが、そのなかでも、まず、一つ目にこわいのがひとだま。二つ目にこわいのが身投げの古いど。三つ目が、うらめしやのやなぎで、四つ目が、動く墓石、五つ目に出てくるのが、一本足のかさ小僧で、・・・」
 おじいさんの話がもりあがるほどに、村人たちはふるえあがりました。
 けれども、兵六(へいろく)という男だけは、へいきな顔です。
「これだけは、おまえでもこわいはずじゃ。アズキとぎのおばけじゃよ」
 おじいさんはまた、話しはじめました。
「アズキとぎはな、本堂にすみつくおばけの大将でな。この村のものも、だれひとり正体を見たものはおらん。『ショーキ、ショキショキ。アズキ、とぎましょか? 人とって食いましょか? ショーキ、ショキショキ』声だけじゃそうな、これが一番こわ〜いおばけじゃ」
 ところが、兵六ときたら、
「おら、なんともねえ」
 なんていうものですから、それなら、きもだめしをしようということになりました。
 そこで村人たちは、暗いお寺の山門から、いっそう暗くてぶきみな墓場へ、兵六をひっぱっていきました。
 墓場にくるとさっそく、ちょうちんのおばけが、きゅうにケタケタとわらいだしました。
「ひゃあ、出た!」
 村人の何人かはにげだしました。
 でも兵六は、
「おら、なんともねえ」
 古いどのところでは、ガイコツがとびだし、やなぎの木の下では、「うらめしや〜」と、ゆうれいが顔を出し、かさ小僧が「べえっ!」とおどしても、兵六はへいきです。
 村人たちはとっくににげだして、もうだれもいません。
 そして一人になった兵六は、本堂のまん中まできて、すわりこみました。
 本堂の主は、あの名高いアズキとぎです。
「おばんでやんす。アズキとぎのだんな、ちょっくら顔を見せてくだせえ」
 兵六がこういうと、とつぜんいなびかりがして、なにやらいんきな声が聞こえてきました。
「アズキとぎましょか? 人とって食いましょか? ショキショキ、ショキ。ショキショキ、ショキショキ」
 兵六は、アズキとぎの声にあわせて、同じようにいいました。
「しょきしょきしょき。だんな、ほかにいうことはないんですかい?」
 いくらアズキとぎが兵六をこわがらせようとしても、ちっともこたえません。
 アズキとぎは、とうとうこまりはててしまって、
「ええい、これでもくらえ!」
 ドドドドドッ!
 天井から落ちてきたのは、それはそれは大きなぼたもちでした。
 そのあまいこと、おいしいこと。
 それからというもの、兵六は、夜な夜なお寺に出かけて、アズキとぎのぼたもちをごちそうになるようになりました。
 このうわさをきいた村人たちは、ぼたもちを食べたくて、兵六といっしょにお寺にきました。
「おばんでやんす。今夜は村の衆もつれてきやしたで、ひとつ、でっかいぼたもちをおねげえしますだ」
 ところがどうしたことか、そのばんにかぎって、一つまみのあんこも落ちてきません。
「だんな、ぼたもちを出してくれねば、おら、うそつきになってしまうだ!」
 はらをたてた兵六が、どなったとたん、いなびかりがして、天井からなにやらドサンと落ちてきました。
「なんだこりゃ? ナスのつけものでねえか。ぼたもちはどうしただ?」
 すると天井から、あわれな声がひびきました。
「毎度毎度、ぼたもちはないわい。たまにはナスのつけものでお茶でも飲んでろ。これがほんとの、もてナスじゃ!」
と、へたなダジャレをいって、もう二度と出てこなかったそうです。

おしまい

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