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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第179話
ネコと茶がまのふた
むかしむかし、あるところに、たいそう腕のいい猟師(りょうし)がいました。
ある日、猟師がえものをとって山をおりてくると、子ネコが一ぴき、家のところでないていました。
「よしよし、わしの家においてやろう」
猟師は、子ネコをかうことにしました。
それからいく年かたったある日、猟師の家に村のなぬしさま(→身分は百姓(ひゃくしょう)だが、役人の仕事をしている人)がやってきました。
「山におそろしい化け物がでて、村の人たちが災難にあっている。ひとつ、あんたの鉄砲(てっぽう)で、化け物を退治してもらいたい」
「わかりました」
猟師はさっそく、化け物退治につかう鉄砲の玉を、いろりばたでつくりはじめました。
すると、それまでいねむりをしていたネコが、うす目をあけて、玉の数を数えるようすをみせました。
(はて、おかしなことをするものだ。ネコは年をとると、魔物(まもの)になるというから、用心したほうがいいな)
猟師は、十二個の玉をつくったほかに、金のかくし玉をひとつ、ネコにきづかれないように、こっそりと、ふところにしのばせました。
どんな猟師でも、いよいよというときのために、かくし玉を用意するのです。
さて、次の日。
猟師は、鉄砲を手に、山の化け物退治にでかけました。
あちこちさがしますが、化け物はあらわれません。
やがて日がくれて、あたりがくらくなってきました。
「今夜は、山の小屋にとまるとしよう」
猟師が山の小屋で休んでいると、ま夜中になって、
ミシッ、ミシッ、ミシッ。
足音をしのばせて、ちかづいてくるものがありました。
猟師はハッと目をさまして、鉄砲をかまえます。
小屋のすきまからのぞくと、くらやみのなかにピカピカと、二つの目玉が光っています。
猟師は、化け物の目と目のあいだにねらいをつけて、ひきがねをひきました。
ズダーン!
ところが玉は、
カチーン!
と、はじかれてしまい、なおも目玉が光っています。
二発目をうつと、また、
カチーン!
うってもうっても、玉がはじかれてしまいます。
とうとう、十二個の玉をぜんぶ、うちつくしてしまいました。
すると、やみのなかの目玉が、
「玉はそれだけだな。ガハハハハハハッ」
と、猟師にせまってきました。
猟師は、化け物がゆだんして近づいたところを、金のかくし玉で、
ズダーン!
と、うちました。
こんどは、たしかな手ごたえがあり、化け物は、
「ギャオォーー!!」
と、さけんで、山おくへにげていきました。
夜があけると、猟師はゆうべ、化け物をうったあたりをしらべました。
そこには、みおぼえのある茶がまのふたがおちていて、十二個の玉がちらばっています。
「この茶がまのふたは、わしの家の物ににているが、どうしたことだろう? おや、血が」
茶がまのふたがおちていたところからは、山おくの方へと、血がてんてんとついています。
猟師があとをたどっていくと、その先に、大きな山ネコが死んでいました。
その山ネコの毛のもようが、じぶんのネコににていたので、猟師がいそいで家にかえってみると、やっぱりネコがいません。
茶がまのふたもなくなっていました。
「そうか。わしのネコが化け物だったのか。鉄砲の玉よけに、茶がまのふたをもちだして、わしを殺そうとしたのだな」
猟師はふたたび山へもどると、山ネコのなきがらを持ち帰り、とむらってやりました。
おしまい
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