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百物語 第196話

山に入らない日

タバコ入れの中のお守り
香川県の民話香川県情報

 むかしむかし、ある山奥に、山仕事をしている人たちのすむ小さな村がありました。
 村のはずれにすむ吾作(ごさく)は、からだが小さいのにたいへんな力持ちです。
 ほかの者たちが五、六人かかってひきだす木も、一人で軽々(かるがる)とひきだしてしまうのです。
 そのうえ吾作は働き者で、山仕事がない日は大きなカゴを背負って山奥を歩き、山菜(さんさい)などをとっていました。
 ある日の事、今日は山仕事がないので、吾作はいつものように大きなカゴを背負って山奥へ入り、山菜をとって山道をおりてきました。
 するときゅうに日がかげり、目の前が夜のように、まっ暗になったのです。
 吾作は足を止めると、空を見あげてビックリしました。
 なんと大きな岩ほどもある大男が、吾作の前に立っていたのです。
 でも、気の強さと力じまんでは、だれにも負けない吾作は、
「そんなところにつったっていてはじゃまだ。どいてけろ!」
と、いいました。
 吾作を見おろす大男は、だまって笑っています。
「何をしている! じゃまだから、どけといっとるんだ! どかねえなら、谷底へころがしてやるぞ!」
 吾作は背負っていたカゴを置いて、すもうをとるかっこうをしました。
 すると大男は、ニヤリとわらい、
「ほほう。わしとすもうをとるというのか。こいつはおもしろい」
 大男はズシンズシンと地ひびきをたてて、しこをふんで組みあいましたが、なんと吾作にひょいとひねられて、ゴロンところがってしまったのです。
「ふん。ずうたいがでっけえだけで、なんの力もありはせん。さあ、どいた、どいた。いつまでもせまい道にひっくりかえってねえで、どいてけろ」
 吾作が背負いカゴをとろうとすると、大男はよほどくやしかったのか、
「まて。もう一度勝負しろ。今度はおいらが、お前をひねってくれるわ」
 そういって吾作にかかっていきましたが、またころがされてしまいました。
「なんと。こんなはずでは・・・」
 そのとき、大男の目玉がギロリと光りました。
「そうか、わかった、それじゃよ。腰にぶらさげたそのタバコ入れが気になって、力が入らねえんだ。それをはずして勝負しろ」
「ああ、いいだろう。何度やっても同じ事だ」
 吾作は腰からタバコ入れをはずして、道のわきになげました。
 次の日の朝、山仕事にでかけた村の人たちは、どこからころがってきたのか、山奥の道をふさいだ大岩の下じきになって、押しつぶされている吾作を見つけました。
 吾作が投げ出したタバコ入れの中を見ると、中にはたくさんのお守りが入っていました。
 吾作はこれまで、そのお守りに守られていたのでしょう。
 吾作はこのお守りを手放したばかりに、死んでしまったのです。

おしまい

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