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百物語 第224話

新しい殿さまのとんち

新しい殿さまのとんち
島根県の民話島根県情報

 むかしむかし、松江城(まつえじょう)の新しい殿さまが、お城の天守閣(てんしゅかく)の「テングの間」でくつろいでいると、十二単衣(じゅうにひとえ)をまとって、まっ赤な袴(はかま)をはいた美しい女の人が現れました。
 そして、ビックリしている殿さまに言ったのです。
「この城は、わらわの城なり。すぐに出て行くように」
 相手がただものでない事を感じとった殿さまは、
「この城がほしいとな。ほしければやろう。あとでここに届けさせよう」
と、答えたのです。
 そして殿さまは、すぐに漁師たちにコノシロという魚をとらせて、お城に持ってこさせました。
 そして天守閣のテングの間に運ばせようとしたのですが、相手がバケモノというので、怖がってだれも運ぶ者がいません。
 すると、久弥(きゅうや)という小姓(こしょう→殿さまにつかえる少年)が、
「では、わたしがお持ちいたしましょう」
と、申しでてきました。
 久弥は三方(さんぼう→神仏または貴人に供物を奉り、または儀式で物をのせる台)にコノシロをのせて、いくつも階段をのぼって天守閣のテングの間まで運んでいきました。
 だれもいない静まりかえったテングの間に入った久弥が、うやうやしく三方をさしだすと、奥の壁の中から十二単衣の美女が現れました。
 美女は三方の上にのっている魚を見て、おどろいている様子です。
「・・・・・・」
 ジッと動かない美女に、久弥が言いました。
「お約束の品です。どうかお受け取りください」
「・・・・・・」
「どうか、お受け取りください」
 久弥にせかされて、美女はしぶしぶと三方をうけとりました。
 殿さまは、「この城」を「コノシロ」という魚にかけて、美女をだましたのです。
 次の日の朝、小姓の久弥が運んだコノシロと三方は、お城の本丸(ほんまる→お城の中心部)の下で発見されました。
 美女はそれ以後、二度とお城に姿をあらわしませんでした。
 この美女は城を築いたときに、まちがえて城の下へうめられた、前の城主の娘の幽霊(ゆうれい)だという事です。

おしまい

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