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百物語 第227話

自分のさいごを知らせ歩いた先生

最後を知らせ歩いた先生
静岡県の民話静岡県情報

 むかしむかし、ある町に、林斎(りんさい)という学者が住んでいました。
 ある年の六月の始め頃から、林斎は知りあいの人たちのあいだをまわって、
「これまで、いろいろお世話になりました。わたしは八月十二日、往生(おうじょう→あの世へ行くこと)することにしました」
と、いうのでした。
「林斎先生は勉強のしすぎで、少しおかしくなってきたのかねえ」
「まじめな顔をして、よくもあんなホラがふけるものだ。林斎先生は最近、お金にこまっておるときいたから、先に香典(こうでん)をよこせといわれるのかと思ったよ」
「こっちはどう返事をしたらいいのか、とまどっちまったよ。縁起(えんぎ)でもねえから、先生が帰ったあとに塩をまいたんだ」
と、あいさつをされた人たちは、だれもまともにうけとりませんでした。
 ところが、八月十一日のことです。
 林斎は、町のお寺へでかけていき、
「わたしは明日死にますので、どうか、お棺(かん)の用意をお願いいたします。そのお棺は・・・」
と、自分からお棺を注文(ちゅうもん)をしたのです。
 お寺の人はあきれましたが、相手は名の知れた学者ですので、むげに断わることもできないと思い、
「わかりました。それでは、そのように用意させていただきましょう」
と、林斎の望みどおりにすることにしました。
 一夜が明けて、いよいよ八月十二日がやってきました。
 林斎は死んだ人がまとう白い衣を着て、ゆっくりした足どりで、お寺へやってきました。
 そして、自分が注文したお棺のできばえに満足して、その中へ横になると、
「では、これで。あとはよろしくお願いします」
と、お棺のふたをしめさせました。
 中からは、しばらくお経のようなものがきこえていましたが、やがてきこえなくなりました。
 お寺の和尚(おしょう)さんが、
「ねむってしまったのかもしれんな。しかし、なんのためかわからんが、先生もイタズラがすぎる。どれ、ちょっとのぞいてみよう」
と、いって、小僧さんにふたをすこしあけさせました。
「あっ!」
 中をのぞきこんだ小僧さんビックリ。
 林斎は両目を見ひらいたまま、本当に死んでいたという事です。

おしまい

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