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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第229話
てんとうさんと金のくさり
佐賀県の民話 → 佐賀県情報
むかしむかし、あるところに、お母さんと三人の子どもがいました。
ある日の事、お母さんはいつものように庄屋(しょうや)さんの家へ、手伝いに出かけました。
お母さんは一日中、庄屋さんの家ではたらいて、かえりにおにぎりを三つもらってきました。
「おいしそう。子どもたちが喜ぶだろうなあ。さあ、はやくかえろう」
お母さんが山道をいそいでいると、大変なことに、やまんばと出くわしてしまったのです。
「い、いのちだけはおたすけを。そのかわり、このおにぎりをさしあげますから」
そう言って、おにぎりを全部さし出すと、やまんばはペロリと食べてしまいました。
そしてお母さんまでも、一口で食べらてしまったのです。
さて、子どもたちが家で留守番(るすばん)をしていると、
「トントントン」
と、戸をたたく音が聞こえてきました。
「お母さんだよ、開けておくれえ」
でもその声は、おそろしくガラガラな声でした。
「お母さんは、そんなへんな声じゃない。お前はやまんばだろう」
子どもたちに正体を見やぶられたやまんばは、声のよくなる木の実を食べました。
「お母さんだよ、あけておくれえ」
声はお母さんに似ていますが、子どもたちは用心(ようじん)して言いました。
「じゃあ、手を見せておくれよ」
子どもたちに言われて、やまんばは戸のすき間から手を差し入れました。
するとその手は、毛むくじゃらです。
「お母さんの手は、そんな毛むくじゃらじゃない。お前はやまんばだろう」
また正体を見やぶられたやまんばは、畑に行って、山イモを手にぬりつけました。
「今度こそ、本当のお母さんだよ。あけておくれえ」
やまんばは、戸のすきまから手をさし入れました。
山イモをぬりつけたので、まっ白ですべすべの手です。
「すべすべの手だ。わーい、本当のお母さんがかえって来たんだ」
子どもたちは、戸を開けました。
するとお母さんに化けたやまんばは、一番小さな弟をだきかかえると、さっと、寝る部屋に入ってしまいました。
しばらくして上の二人の兄弟は、お腹が空いたので、お母さんに声をかけました。
「お母さん、ごはんはまだ?」
すると、こんな答えが返ってきました。
「わしはもう、お腹がいっぱい。お前たちの弟は、うまかったよ」
これを聞いて、二人の兄弟はビックリ。
「あれは、お母さんじゃない。やまんばだったんだ。かわいそうに弟は、食べられてしまったんだ」
兄弟はそっと家を抜け出すと、いちもくさんに逃げだしました。
兄弟が逃げだした事に気がついたやまんばは、すごい速さで追いかけてきました。
「まてまてえ、逃がしてなるものか!」
「もうだめだ、このままでは追いつかれてしまう」
ふと前を見ると、すぐ先に大きな木があります。
兄弟は持っていたナタで木に切れ目をつけて、のぼっていきました。
やまんばは、木の下からどなりました。
「やいお前たち、どうやって、この木にのぼったんだ?」
すると、上の兄が言いました。
「簡単さ。手につばをつけてのぼるんだよ」
やまんはは言われたとおりに、手につばをつけてのぼろうとしましたが、ツルツルとすべってのぼれません。
それを見ていた二番目の兄弟が、
「バカだな。ナタで切れ目をつけてのぼればいいのに」
と、言ってしまったのです。
「そうかい、それはいい事を聞いたよ」
やまんばはナタで木に切れ目を入れながら、どんどんとのぼっていきました。
兄弟はあわてて上へのぼっていきますが、やまんばにはかないません。
もう少しで追いつかれそうになったとき、兄弟は空にむかっておいのりしました。
「おてんとうさま、おてんとうさま。ぼくらを助けてください。助けてくれるなら、金のくさりを下ろしてください」
すると空から、金のくさりがするすると下りて来たのです。
「ありがとう、おてんとうさま」
兄弟がこのくさりにつかまると、くさりはひとりでに、ガラガラと空にまき上げられていきました。
それを見ていたやまんばも、兄弟のまねをして言いました。
「おてんとうさま。こっちにもくさりを下ろしてくれえ」
すると今度は、くさったなわが下りて来ました。
やまんばがくさったなわにつかまると、くさったなわはプッツリと切れてしまい、やまんばは地面へと、まっさかさまにおちて行ったのです。
こうして助かった兄弟は、夜空にかがやく兄弟星になったと言う事です。
おしまい
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