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百物語 第261話

バケモノすっとびかご

バケモノすっとびかご
大阪府の民話大阪府情報

 むかしむかし、ある秋の夕ぐれのことです。
 村はずれの松の老木(ろうぼく)の下に、カゴが一ちょうおいてありました。
 女の人をのせる、美しいかごです。
 それを、たきぎをひろいにきた二人の男の子が見つけました。
「りっぱなカゴだな。いつからおいてあったんだ?」
 カゴを見つけた子どもに、知らせをきいてやってきた村の男たちがたずねました。
「おいらがここへきたときは、なかったんだ。たきぎをひろってかえろうとしたら、おいてあったんだ。中で音がしたから開けてみようとしたら、きれいな若い女の人が顔をだしたんだ」
「人さわがせだな。カゴかきはどこへいったんだろう? まさか、カゴが一人でここへきたわけではあるまい。ちょっと中の人にきいてみよう」
 一人の男がそういいながら、カゴの戸に手をかけようとすると、戸がするするとひらいて、中から女の人が顔をのぞかせました。
「あれ?!」
 カゴの中から顔をのぞかせたのは、頭に白いものがまじった色の白い女の人です。
 きらびやかなきものをきてはいますが、とても、若いきれいな娘ではありません。
 あたりがくらくなってきているので、男は子どもたちが年をみまちがえたのだと思いました。
「あの、あなたさまは、どちらのお屋敷のおかたですか? それからこんなところに、どうしていらっしゃるのですか? カゴかきがにげてしまったというのなら、わたしたちがお屋敷までお送りいたしますが」
 男はいろいろたずねましたが、カゴのなかにいる女の人はだまっています。
 何を聞いても、返事一つしないのです。
 そして、上目づかいに村の男たちを見ながら、ときどきうすきみわるい笑みをもらしていました。
「・・・。このおかたは口がきけないんだろう。しかたがないから、このままにしておこう」
 あたりがくらくなると、女の人の白い顔が、ますます気味悪く見えてきます。
 男たちはカゴをそのままにして、帰っていきました。
 けれども、やっぱり気になります。
「あのあたりは、夜になるとオオカミが出るところだ。ほうっておいたら、食われてしまうぞ。なんともうすきみわるい人だが、今夜ひと晩だけでも、わしらで番をしてやろう」
 村の男たちは相談をすると、五人ばかりの若者をえらびました。
 そして、たいまつをともしながら、村はずれの松の木の下へでかけていきました。
 すると、カゴはもうどこかにきえていました。
「おや? カゴかきどもが、もどってきたんだな。きっと酒でものみにいったんだろう。まったく人さわがせなことだ」
と、ぶつぶつ文句をいいながらも、ひと安心して男たちがもどってくると、
「おい、おい。あのカゴが河原にあるとよ。馬子(うまこ→ウマをひいて人や荷物を運ぶことを仕事とする人)たちがカゴの中をのぞこうとしたら、十七、八の、みたこともないような美しい娘が顔をだしたとよ」
「な、なんだと?」
 男たちは、顔をみあわせました。
 男たちの見たのは、たしかに年老いた女の人でした。
「そんなばかな。おれ、みてくる」
「おれもいく」
 今度は河原めざして、走っていきました。
 すると途中のお宮のうらの松の木の下に、あのカゴがありました。
「おかしいな。こんなところにカゴがあるぞ」
 男たちがおそるおそるカゴに近づくと、カゴの戸がするすると開きました。
 そして中から、
「ぎゃあー、出たー!」
 男たちはビックリして、逃げだしました。
 カゴの中からでてきたの、娘と、老婆と、のっぺらぼうと、二匹のヘビだったのです。

おしまい

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