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百物語 第267話
火の戦い
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むかしむかし、京の都にすむ若い男が、大阪にすむ友だちのところへ泊まりがけで出かけていきました。
都からきた男は、友だちの家で近所の者たちとお酒をくみかわしているうちに、すっかりいい気分になってしまいました。
そしてみんなは、近くの野辺に散歩に出かけることにしたのです。
心地よい夜風にふかれながら歩いていると、百メートルほど先の暗闇に、いくつもの小さな火が燃えているのが見えました。
火は五つ六つと燃えては、ひとつになって消え、また燃えあがります。
「あれは、何の火だろう?」
京の都からきた男がいいましたが、だれにもわかりません。
しばらくだまって、みんなで火をながめていました。
そのうちに、一人の男が、
「このあたりは、むかし大きな合戦があった戦場だ。死んだ侍たちのたましいが火の玉になって、この世に現れたのかもしれんぞ」
と、いいました。
都からきた男は、もっと近くへ行ってみようといいましたが、ほかの者たちは、
「死んだ人のたましいの火というものは、近づけば遠のくという。ここで見ておった方がいい」
と、いって、動こうとしません。
しかたなく都からきた男は、一人で火の近くまで行ってみました。
すると、ちょろちょろ燃えあがる火は、よく見ると侍の形や馬の形をしていました。
たくさんの侍たちの火は、燃えながらひとつの群れとなって、むこうへ動いていきます。
そしてむこうの草むらから燃えあがった火とぶつかって、はげしくせめぎあうと、ひときわ大きく燃えあがって、すうーっと消えていきました。
するとさらに、あちこちの草むらから小さな火がうまれます。
またそれが侍たちの形になって、ふわふわと、ひとつにつらなっていきます。
せめぎあいは、いつ果てるとも知れません。
彼らは死んでも、こうして戦い続けているのです。
「死んでも戦いから逃れられんとは、侍とは悲しいものよ」
都からきた若い男は手をあわせると、静かに念仏をとなえたという事です。
おしまい
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