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百物語 第268話
亡者の通る道
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むかしむかし、乗鞍岳(のりくらだけ)の西ふもとにある千町が原にすむ百姓の平十郎(へいじゅうろう)は、秋のかり入れが終わった翌朝、大好きな猟へと出かけていきました。
今日の猟場は、青屋(あおや)から平金(ひらがね)に通じる、乗鞍岳のふもとの桜が岡(さくらがおか)という亡者道(もうじゃみち)です。
ここは亡者が通る道として恐れられ、地元の村人もめったに近寄らないさびしいところでしたが、平十郎は一向に気にする様子もなく、のんきにかすみアミを張ってつぐみをとっていました。
と、ふいに白い霧をぬって、かすみアミの方から人の叫び声が聞こえてきました。
平十郎が小屋の窓からのぞくと、なんとたくさんの人間の生首がかすみアミにかかり、
「平十郎、平十郎」
と、口々に叫んでいるのです。
びっくりした平十郎は、震える手でやっと戸を閉めると、その場にへたりこんでしまいました。
小屋の外では、あの無気味な声が、
「平十郎、平十郎」
と、叫びながら、小屋の中に飛びこむ機会をねらっています。
しばらくして平十郎が窓の外を見ると、いきなり木にぶらさがった生首が平十郎を見てニヤリと笑いました。
そして生首は平十郎に襲いかかろうと飛びかかったのですが、生首はその直前で動きを止めると、
「お前は三日前に、仏さまのお下がりを食ったな。くやしいが、わしらでは捕えることができん」
と、いまいましそうな声で言いました。
やがて霧が晴れると、恐ろしい生首たちはどこかに消えていました。
帰りじたくをした平十郎が、ころがるように山を降り、千町が原の沼地まできた時です。
再び白く深い霧が出て、視界をすっかり閉ざしました。
すると、ピチャピチャ水を飲む音がして、沼に亡者の生首がぼーっと浮かびあがったのです。
「ウギャーーー!」
それを見た平十郎は急いで家に逃げ帰ると、そのまま高熱を出して、何日も寝込んだということです。
おしまい
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