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百物語 第275話
いろりのはいから出てきた黒い手
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むかしむかし、山奥の一軒家に、お父さんとお母さんと女の子がすんでいました。
ある日、お父さんとお母さんが山仕事に出かけたあと、女の子が一人で留守番をしていました。
雨のふる寒い日だったので、お母さんはいろりに火をおこし、おやつに木の実をたくさんおいていきました。
女の子は、いろりの火にあたりながら木の実を食べました。
いつもはきちんと種をすてるのですが、今日は誰もいないので、ついめんどうくさくなって、いろりの灰の中に『ぺっぺっぺ』と、種をはき出しました。
そのうちに女の子は眠たくなって、うとうとと、いねむりを始めました。
すると、どうでしょう。
いろりの中で燃えている太い木の上に、まっ赤な着物を着た親指ほどの小人が次々と現れたのです。
それに気づいた女の子は、びっくりしながら、いろりの中を見ていました。
小人たちの先頭には、毛のついたかさをかぶった男がいて、金の棒をふりまわしています。
そのうちに、いろりの灰がむくむく動いたかと思うと、今度ははかまをはき、とんがったぼうしをかぶった大むかしの侍が、槍を持って出てきました。
続いて棒を持ったやっこさんたちが現れ、何か言いながら今にも女の子にとびかかろうとしています。
最後に馬に乗った狩人姿の侍たちが出てきて、女の子にさっと弓をかまえました。
女の子は、もうどうしてよいかわかりません。
そこで思わず、そばにあった火ばしをつかむと、木の上の小人たちをはらいとばしました。
そのとたん、小人たちがぱっと消えました。
「よかった」
女の子が安心したのもつかの間、またもや灰がむくむくと動きだし、今度は黒くて大きな手がにゅうと現れて、女の子の手をぎゅーっとにぎりました。
「きゃあーーー!」
女の子は一声叫ぶと、そのまま気を失ってしまいました。
そこへ、お父さんとお母さんがもどってきました。
「大変だ。娘がたおれている!」
お父さんとお母さんは女の子を抱き起こすと、必死に介抱(かいほう)しました。
やがて気がついた女の子は、これまでのことを二人に話しました。
それを聞いたお父さんは、
「それはきっと、いろりの精のしわざにちがいない。お前がいろりの中に種なんか捨てたりしたから、いろりの精が怒ったんだよ」
と、言って、いろりの灰の中から木の実の種を全部取り出して、きれいに掃除をしました。
それからというもの、このいろりには何も起こらなくなったそうです。
おしまい
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