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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第283話
お化け見物
三重県の民話 → 三重県情報
むかしむかし、伊勢の国(いせのくに→三重県)の津(つ)というところに、一人の侍が住んでいました。
とても変わった男で、お化けや幽霊が大好きなのです。
お化けや幽霊も、その事を知っているのか、この侍の家には、毎日のようにあやしい事がおこるようになりました。
ある晩、侍が夜中にふと目を覚ますと、座敷の方から、なにやらにぎやかな音が聞こえてきます。
「はて? こんな夜中に何だろう?」
侍が座敷へ行ってみると、たんすの引き出しが一人でに開くと、中から出てきた着物が、ヒラヒラと踊っているではありませんか。
お化け好きな侍は、それを見ると手を叩いて喜びました。
「よっ、いいぞ。もっともっと踊れ」
するとそのうちに、部屋にあった机やざぶとんも、ピョンピョンと踊りはじめます。
そして、棚にかざってあった人形までもが、輪になって踊り出しました。
侍は、いよいよおもしろがって、
「おい、火ばち。じっとしていないで、お前も踊れ」
と、言うと、重い火ばちもフワフワと浮かんで、ゆらゆらと踊り出しました。
そのうちに、酒どっくりも踊り出したので、侍が、
「こら、お前は踊らんでもいい。それよりも、わしのさかづきに酒をつげ」
と、言うと、酒どっくりは、仕方なく宙に浮いたまま、侍の持つさかづきに何度も酒をつぎました。
これには、お化けも弱ってしまい、踊っていた品物は次々と元の場所へ帰っていきました。
「なんだ、なんだ、もうおしまいか。どんなお化けか知らんが、なさけないやつだ」
侍はそう言うと、そのまま大の字になって寝てしまいました。
人をおどかすお化けが、人に喜ばれては立場がありません。
お化けたちはそれからというもの、侍が家にいるときに出てくる事はありませんでした。
ところが、侍が殿さまにお供で、遠くの国へ出かけることになったのです。
するとその晩、さっそくお化けたちは大騒ぎを始めました。
夜中に座敷のほうで、なにやら騒がしい音がするので、奥さんや家の者たちが行ってみるとどうでしょう。
着物や家の道具だけでなく、一つ目小僧やろくろっ首にカラカサお化けまでもが、陽気に踊りまくっているのです。
みんなはびっくりして、その場に腰を抜かしてしまいました。
時が過ぎ、やがて一番鳥が鳴きだすと、お化けたちの姿はすうっと消えて、着物も家の道具も、もとのところにもどって静かになりました。
「やれ、やれ、助かった」
みんなはほっとして、お互いの無事を喜びました。
しかし考えてみると、この家のお化けは、ただ踊るだけのゆかいなお化けで、踊り終わった後は、きちんと後片付けもするし、物を壊したり人に怪我をさせるわけではありません。
そこで奥さんが、こう言いました。
「こんな事ぐらいでおどろいていては、主人に申し訳がありません。今夜はひとつ、みんなで腰をすえて、お化けの踊りを見物しましょう」
「なるほど、奥方のおっしゃる通りだ。御主人がきもっ玉の太い人として有名でも、家の者が腰抜けでは世間の笑い者になる。それにもし何かがあれば、みんなでお化けをやっつけようではないか」
家の者たちも、覚悟を決めました。
さて、その晩は家中の者が座敷に集まって、お化けが出てくるのを待つ事にしました。
奥さんは、眠そうな子どもたちも座敷に座らせて、
「もうすぐ、おもしろいものが見られるからね」
と、子どもたちをはげましました。
やがて真夜中になると、座敷の戸がすうっと開いて、奥さんの着物が出て来ました。
続いて女中さんや子どもの着物が出て来ると、着物たちはみんな輪になって、ゆらりゆらりと踊り始めました。
♪ピー、ピー、ピイヒャラリー
♪ピイヒャラリー、ピイヒャラリー
♪ドンドンドン。
お祭りのような音がしたかと思うと、座敷にあった道具が次々と宙に浮かび、台所のなべまでが飛んできました。
そのにぎやかな事、子どもたちも奥さんも家の者たちも、その不思議な出来事に大喜びです。
そしてお化けが小鬼の姿になって座敷に現れると、みんなは大きな声で、
「よっ、待ってました」
と、大きな拍手です。
人間に大喜びされたお化けは、くやしいやらなさけないやら。
(なんてやつらだ。ゆうべはあんなに怖がっていたくせに。まったく、この家の連中は)
それでも、しばらくは意地になって踊っていたのですが、やがて宙に浮いていた物たちが元の場所へ帰って行き、座敷の中は静かになりました。
「あれえ、今夜はもうおしまいか」
「そうだ、そうだ。せっかく、おもしろくなってきたのに」
「おい、お化けたちよ。頼むからもう一度出てくれよ」
家のみんなは口々に言いましたが、お化けが出てくることは、二度となかったそうです。
※ この朗読は、以下の方により、ご提供を受けた作品です。
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おしまい
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