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百物語 第285話
音羽の池 (六月二十三日)
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むかしむかし、佐渡が島(さどがじま)のお寺に、音羽(おとわ)という美しい女中さんがいました。
ある日の事、音羽は山菜をつみに山へ行きました。
そして夢中になってつんでいるうちに、音羽は山奥にある池のほとりまできてしまいました。
着物の裾(すそ)が土で汚れてしまったので、音羽が池の水で洗っていると、いきなり若者が現れて言いました。
「われは、この池の主の大蛇である。音羽よ、幸せにしてやるゆえ、われと夫婦にならぬか?」
音羽は恐ろしくて、ブルブルと震えました。
「もう一度言う、われと夫婦にならぬか?」
再びたずねられた音羽は、早くその場から逃れたい一心で、つい、
「はい、夫婦になります」
と、いって、お寺へ逃げ帰っていきました。
すると次の日の朝、白い馬をつれた使いの男が、お寺へ音羽を迎えにきたのです。
もう逃げられないと思った音羽は、一緒に山へ向かいました。
それを、和尚さんが見ていました。
「はて。音羽のやつ、しょんぼりしながら、ふわふわと山へ登って行くではないか。どういうことじゃ?」
和尚さんは、ひそかにあとをつけてみることにしました。
和尚さんの目には、白い馬も馬をひく男の姿も見えないのです。
山奥にある池のほとりにつくと、音羽が池の中に入って行くところでした。
それを見た和尚さんはあわてて飛び出すと、音羽の体を後ろから抱きとめました。
「音羽、何をするんじゃ! なぜ、身投げなどする気になったんじゃ!」
和尚さんがたずねると、音羽は泣きながら、これまでの事を話しました。
そして和尚さんを振り払うと、形見の鏡とくしを残して、池の中に飛び込んでしまったのです。
このときから土地の人たちはこの山奥の池を、『音羽の池』と呼ぶようになりました。
音羽の池には浮き島があり、浮き島にはきれいな清水が湧き出す井戸があります。
音羽が池に飛び込んだのは六月二十三日と言われ、毎年この日には土地の人たちが池のほとりに集まって、音羽の霊をなぐさめるのです。
このとき土地の人たちは、浮き島の井戸の中へ供え物のおせんべいを投げいれます。
池の主と音羽が食べる分は、らせんを描きながら底に沈んで見えなくなりますが、それ以外は水に浮いてしまい、底には沈まないといわれています。
また、この浮き島の井戸は日本海の海の底にある竜宮城にまで続いていて、音羽は今でもそこで暮らしているそうです。
おしまい
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