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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第287話
人食い鬼の娘
大阪府の民話 → 大阪府情報
むかしむかし、大阪のある村に、恐ろしい人食い鬼がいました。
その人食い鬼には一人娘がいて、今日は初めて人間を食べる日なのです。
「さあ、もうすぐここを男の人が通るから、襲いかかって食べるんだよ」
人食い鬼の父親が言うと、娘の鬼は怖がって、
「いやよ。人を食べるなんていや」
と、首をふりました。
「大丈夫、わしがついていてやるから。大体、人も食えんようでは、立派な人食い鬼にはなれんぞ」
「でも・・・」
「さあ、頑張るんだ」
人食い鬼の父親は、一生懸命に、娘に言い聞かせました。
するとそこへ、男の人が通りかかりました。
きりりとしたなかなかの美男子で、それに力も強そうです。
娘の鬼は怖いやら恥ずかしいやら、慌てて父親の後ろに隠れました。
「ほら、何をぐずぐずしている。早く食わんか」
人食い鬼の父親は、娘を男の人の前に突き出しました。
「人食い鬼だ!」
びっくりした男の人は、すぐに逃げ出そうとしました。
すると鬼の娘は、手で顔を隠して泣き出したのです。
「いや、人を食べるなんていやよ」
相手は人食い鬼といっても、まだ可愛い娘だったので、男の人はなんだか可哀想になってきました。
そこで鬼の娘に、やさしく言いました。
「よしよし、もう泣くな。それよりも、わたしと腕相撲をしよう。もしお前が勝ったら、喜んで食われてやるよ。でもお前が負けたら、人を食うのをあきらめてくれ。いいね」
そのとたん、鬼の娘はにっこり笑いました。
娘は腕相撲が大好きで、これまで鬼の仲間に負けたことがありません。
そして男の人と鬼の娘は、さっそく腕相撲をはじめました。
「はっけよい。のこった!」
ところが男の人の力はとても強くて、娘の腕は今にも倒れそうです。
隠れて見ていた人食い鬼の父親も、とうとうがまん出来ずに飛び出してきました。
「娘よ、何をやっている。相手はたかが人間だぞ。しっかりしろ。ほれ、今だ」
でも男の人は強くて、鬼の娘は体ごとひっくりかえされてしまいました。
「なんだ、なんだ。これでは人を食うことも出来んではないか」
人食い鬼の父親は娘をしかると、男の人に言いました。
「よし、それなら今度はつな引き勝負だ」
そして持っていたつなの一方を男の人に渡すと、人食い鬼の父親は娘と二人で、つなを力一杯引っぱりました。
「それ! 鬼の力を見せてやるわ!」
それでも男の人が強くて、鬼の親子はずるずる引っぱられてしまいます。
「おい! だれか手伝え!」
鬼の父親の言葉に、どこからか二人の人食い鬼が飛び出してきて、一緒につなを引き始めました。
「それ引け、わっしょい! それ引け、わっしょい!」
四人の鬼は歯をくいしばって、つなを引きます。
ところが四人ともずるずる引っぱられてしまい、あっという間に、男の人の方へ倒れ込んでしまいました。
「たまげた! お前はなんて力の強いやつだ。とても娘の、いや、われわれ鬼の食えるような人じゃない」
感心する人食い鬼に、男の人は言いました。
「それでは約束通り、人を食うのをやめてもらうぞ」
「わかった。約束は守ろう」
それから人食い鬼は約束を守って、人を襲うことはしなくなったということです。
おしまい
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