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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第294話
カエルと娘
大阪府の民話 → 大阪府情報
むかしむかし、大阪のある町に、着物の布地を商う男がいました。
男は年に二回ほど重い荷を背負って、福井の町まで商売に出かけていました。
そして大阪にはちゃんと奥さんがいるのに、福井で世話になっている大きなお店には、
「もう四十に手がとどきますが、まだ一人者で妻もおりません。さみしいかぎりです」
などとうそをいって、お店にいる若い娘をだましては、身のまわりの世話をさせていました。
さて、一月八日の事です。
男は大阪の家に友だちを招いて、お酒をのんでいました。
火鉢で手をあぶりながら話をしていると、どこから出てきたのか、一匹のカエルが部屋の中に入ってきました。
「おや? 土の中が寒くて、暖まりに出て来たのか?」
すると、となりの仲間が、
「こんな季節はずれにカエルが出てくるとは縁起でもない。ここの商売がひっくりかえるというお告げじゃ。わっはははは」
と、いって笑いました。
「バカな事を言うな。縁起でもない」
主人の男は、なにか不吉なことを感じたのか、火箸を炭火でまっ赤に焼くと、いきなりそれをカエルの頭におしつけたのです。
ジューーッ!
頭を大やけどしたカエルは、くるんとひっくりかえって死んでしまいました。
それからしばらくが過ぎて、二月の中旬になりました。
男はまた商売の荷を背負って、福井へ出かけていきました。
そして世話になっているお店へいくと、親しくしている娘の姿がありません。
お店のおかみさんにたずねると、
「あの娘は、亡くなりました」
と、なみだを流しながらいうのです。
「忘れもしません。正月八日の夜のことです。あの娘にお茶をたてさせながら、『もうすぐ二月だね。今度大阪からあの人がきたら、夫婦になるよう話をしようかね。』と、そんなことを話していると、あの娘は恥ずかしそうに顔を赤くしていましたが、そのうちにどうしたのか、きゅうにごろんと横にたおれたんです。そしてまるでカエルのように手足をのばし、ブルブルふるえながら息をひきとってしまいました。そのときに、あの娘の頭を見ると、頭のてっぺんに焼けた火箸をあてたようなやけどのあとがあったのです。いい娘だったのに」
お店のおかみさんは、何度もなみだをぬぐいながら、不思議な死に方をした娘の話をおえて男の顔を見ました。
すると男は目をむき、額からたらたらと玉のようなあぶら汗を流していました。
「おや? どういたしました?」
お店のおかみさんが男の顔をのぞきこむと、男はまるでカエルのようにグビグビと喉を動かすばかりで、そのまま死ぬまで口をきくことができなくなってしまいました。
おしまい
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