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百物語 第296話
黒姫物語
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むかしむかし、志賀(しが)の大沼池(おおぬまいけ)に、大蛇がすんでいました。
ある日のこと、大蛇は中野の城の黒姫(くろひめ)という、美しい姫を好きになったのです。
そこで大蛇は若侍に姿を変えて城を訪れ、城主の高梨摂津守(たかなしせっつのかみ)に、
「姫を嫁に欲しい」
と、お願いしたのです。
しかし摂津守は、その願いを聞き入れようとはしません。
そこでたまりかねた若侍は、ついに自分の正体を明かして、
「わしの本当の姿は、大沼池の主である大蛇じゃ。是が非でも姫が欲しい!」
と、言ったのです。
驚いた摂津守は、なんとかして大蛇の願いを退ける手はないかと考え、
「よし、それでは、わしの馬の後から城のまわりを二十一まわり出来れば、姫をお前の嫁にやることにしよう」
と、摂津守は約束したのです。
さて、その当日、城のまわりには蛇が嫌がる鉄の柵が張りめぐらされて、そこに刀が何本も結びつけられました。
そして摂津守が馬を走らせると、若侍姿の大蛇はその後を追いました。
ところが馬の速さに負けまいと走る若侍は苦しさのあまり、とうとう大蛇の正体を現して、刀で傷を負いながらも馬を追いかけ、やっとのことで二十一まわりしました。
だけど摂津守は、約束を守りません。
怒り狂った大蛇は、中野城下の家々をこわし始めたのです。
これを見ていた黒姫は、とうとう大蛇のもとに嫁ぐ決心をして、大暴れする大蛇に叫びました。
「大沼池の主さま。わたしはあなたのもとへ参りましよう」
すると大蛇は暴れるのをやめて、黒姫を背中に乗せると、北の山へと消えてしまいました。
野尻湖(のじりこ)の西にある黒姫山(くろひめやま)の名前は、この話からつけられたそうです。
おしまい
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