福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第302話
大浪の池
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むかしむかし、志布志(しぶし)に、あるお金持ちがいました。
しかし残念なことに、夫婦には子どもがいません。
そこで二人は、くる日もくる日も水神さまにお願いしました。
「どうか、子どもを授けてください」
すると、二十一日の満願の日に赤ちゃんを身ごもり、やがて玉のような女の子が生まれました。
二人は女の子を、お浪(なみ)と名づけました。
お浪は大きくなるにつれて、美しい娘に成長していきます。
そして縁談も、次から次へと持ちこまれてきました。
だけどお浪は、縁談を断わりつづけるのです。
やがて心配した両親は、とてもよい相手を見つけてきました。
相手は堺の豪商の三男で、なかなかの若者です。
お浪の両親は、この若者がすっかり気に入りましたが、しかしお浪は相変わらず承知しないのです。
「お浪よ。お前はこの家を終わらせるつもりか? どうか、婿を迎えておくれ」
両親が泣いて頼むので、
「・・・わかりました」
と、お浪はしぶしぶ承知したのですが、そのかわり嫁にいく前に、霧島(きりしま)に参りたいといいだしたのです。
「おお、おお、そのくらい、お安い御用じゃ」
さっそく両親は、お浪をつれて志布志(しぶし)を出たのです。
やがて三人は、霧島山中の湖につきました。
お浪と両親は、この美しい湖のほとりで、むつまじく語り合いながら弁当を広げましたが、ところが突然、お浪は立ち上がるとそのまま湖の中へ入って行き、湖の中に消えてしまったのです。
「お浪、どうしたんじゃ、出ておいで」
両親は、大声で叫びました。
すると湖面がざわざわ揺れて、お浪の顔があらわれました。
そして、ぽろぽろと涙をこぼしながら、
「父さま、母さま、もうこれ以上おそばにおいていただくわけにはまいりません。さらばでございます」
お浪はそう言うと、また湖の底に消えてしまったのです。
「どういうわけじゃ! お浪、もう一ぺん顔を見せておくれ、お浪や」
両親が必死で呼びかけると、そこに現れたのは世にも恐ろし、大蛇の顔だったのです。
「・・・そうか。だが大蛇でもよい、どうか帰っておくれ」
二人は一生懸命叫びましたが、大蛇は小さく首を横に振ると再び湖に姿を消して、二度と現れることはありませんでした。
この事があってから、その湖は『大浪の池』と呼ばれるようになったそうです。
おしまい
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