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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第303話
千匹オオカミ
山梨県の民話 → 山梨県情報
むかしむかし、甲斐の国(かいのくに→山梨県)に、呉服を売る商人がいました。
静岡の方へいっての帰り道、富士山のふもとの原っぱを通っているところで日がくれました。
「まずいな。ここら辺は家の一つもないから、オオカミでも出てきたら大変だ」
そう言っているところへ、
ウォーーーーン!
と、遠くからオオカミの遠吠えが聞こえてきたのです。
しかも、あっちの谷、こっちの森から、その声によび出されるのか、オオカミの遠吠えはどんどんこちらへ近づいてくるのです。
「いよいよ、大変だ」
商人があわてて、その辺を見まわすと、近くに一本の高い木がありました。
そこで商人は、その木の所へかけていき、それに登りました。
「やれ、やれ。これで大丈夫」
いくらオオカミでも、ここまでは登ってこれません。
まもなくオオカミたちは、木の下に集まり、
ウォー、ウォー、
と、おそろしい声で吠えますが、どうやっても木の上の商人を襲うことは出来ません。
すると、中の一匹がいいました。
「これではだめだ。孫太郎ばあさんを呼んできて、なんとか考えてもらわなくちゃ」
「そうだ。そうだ」
「よし、おれたちが呼びに行こう」
そして二、三匹が、どこかへ走っていきました。
まもなく帰ってきたのを見ると、大きな年寄りのネコと一緒です。
「孫太郎ばあさん、一つ頼みます。木の上に人間が登っていて、おれたちでは、どうにもならんのです」
すると、孫太郎という名の古ネコが、
「ふーん、これは犬ばしごをかけるよりほか、手がないな」
と、言いました。
すると木の下で、一匹のオオカミがしゃがみました。
そしてその上へ、一匹のオオカミが登りました。
そのまた上へ、もう一匹が登りました。
こうして何匹ものオオカミが順々に登っていき、ついに商人の足元までたどりついたのです。
商人は、もっと上へ登ろうと思うのですが、上には何か巣(す)のような物があって頭につかえます。
ハチの巣なのか、それとも鳥の巣なのか、とにかく大きな物です。
「たとえハチの巣であろうと払いのけて、もっと上へ登らないと」
そこで商人は腰に差していた短い刀を抜いて、その巣にブスリと突き刺しました。
ところがおどろいた事に、それはクマのお尻だったのです。
クマが木に巣をつくって、そこでねていたのです。
おどろいたクマは木の下へ転がり落ちると、全速力で逃げ出しました。
これを見ると、オオカミたちは、
「それ、人間が逃げ出したぞ!」
と、逃げたクマに襲いかかりました。
ですが相手はクマなので、とてもオオカミではかないません。
次から次へとやっつけられたオオカミは、
「この人間は、なんて強いんだろう。とても、かなわん」
と、孫太郎ネコと一緒に、どこかへ逃げていってしまいました。
木の上でブルブルとふるえていた商人も、これで安心です。
まもなく夜があけたので、
「ああ、こわかった。こわかった」
と、また甲斐の国へ帰っていきました。
おしまい
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